災害時でもお役所仕事 (2018/9/24)

 

 

923日付けの北海道新聞に『被災地支援の液体ミルク使われず 都が千本提供 道、各町に「利用控えて」』という見出しの記事が出た。

 

道は被害があった町に対して、「東京都が支援物資として提供した液体ミルクの利用を控えろ」、つまり「使うな」と連絡したわけである。道はその理由を次のように説明している。

 

「液体ミルクは国内で使用例がない」

「取り扱いが難しい」

 

最初の理由「国内で使用例がない」。これは真実ではない。既に使われている。2011年の東日本大震災の時に海外から支援物資として液体ミルクが届けられた。そして、熊本地震の際には日本フィンランド友好連盟を通じて約5000本の液体ミルクが提供されている。

 

この二つの災害が大きなきっかけとなって、液体ミルクの製造販売について法制度整備の動きが出た。とりわけその動きが加速されたのが、首都圏の都県と政令都市が集まる「九都県市会議」が国に対して乳児用液体ミルクの規定整備を要請したことである。国への要請と同時に、自治体による備蓄で液体ミルクの市場創成を目指すという方針も決めた。

 

そしてこの8月、厚生労働省は原料や添加物の使用基準、滅菌方法などの液体ミルクの規格基準を定めて国内での製造流通を解禁した。ただし、国内産の流通が実現するのは来年以降になる見込みという。

 

二つ目の理由「取り扱いが難しい」。これも真実ではない。全然難しくないし、粉ミルクより簡単である。粉ミルクを使うには、常にほ乳瓶とお湯が必要である。一方、液体ミルクは封を切ればそのまま使える。欧米で液体ミルクが好まれる理由はこの利便性にある。仕事を持っている母親は忙しい。それを解決してくれるのが液体ミルクである。少々お値段が高くとも、それは十分支払うに値する価値と見做されている。

 

ではなぜ日本で販売が認められていなかったのだろうか。単純に基準がなかった、ただそれだけの話である。では、なぜ基準がなかったのだろうか。製造販売する事業者にとって、粉ミルクより割高な液体ミルクの市場が見通せないので、販売戦略に乗らなかった。それゆえに、規格作りに至らなかったに過ぎない。(そもそも規格作りとは、業界団体が行政と一致して作るのが一般的である。とりわけ、日本ではその傾向が強い。)

 

さて、冒頭の北海道のお役人のお話である。「使用例がない」、「取り扱いが難しい」という判断は、相談した医師から聞いた話だという。その医師がどの程度液体ミルクについて知識があったのかもよくわからない。一方、液体ミルクを巡る動きはちょっとウェブを探せばわかる話である。もっとも、当の役人もその程度の情報収集はしたのかも知れない。しかし、自分で責任をもって行動するつもりはなかったようである。まさに事なかれ主義、典型的なの役人の行動である。面倒そうなことには係わらない、責任が及ぶのはまっぴら御免、他人の説明を盾に何もしない。

 

この都からの支援で送られた液体ミルクは、道が「大切に保管」したままにして、使用期限切れとなった時点で「廃棄」の憂き目に遭うのだろう。

 

ちなみに参考として、液体ミルクと粉ミルクの比較が分かりやすく纏めてある表があったので掲載しておく。

 

液体ミルクと粉ミルクの比較

比較項目

粉ミルク

液体ミルク

授乳の時間、手間

×

外出時の携帯性

×

安全性

災害時

×

価格

×

(出所)液体ミルク.COM

 

 

 

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