『名著誕生 5 コーラン』 ブルース・ローレンス著 池内 恵訳 2008年3月 ポプラ社
日本人でイスラム教を理解している人は、どれだけいるのだろうか。聖書を読んだ人はそこそこいても、コーランを読んだ人はまず希少な存在であろう。
著者はデューク大学の教授である。欧米のキリスト教徒を読者と想定して、イスラム教を理解させることを狙ってこの本を書いている。特に、イスラム世界の歴史に重点を置いて記述してあるので、読んでいても理解しやすい。
聖書と同様、コーランというと、一般人には「宗教」の書(啓示といった方が正しい)という概念が強すぎるかもしれない。確かに、イスラム教徒でない人にとってコーランを理解することはかなり難しい。とりわけ、日本のように無宗教の人が多くを占める文化の中にいると、なおさらのことである。
これまでは、イスラム圏とりわけアラブの世界については、日本にとっては産油国としての繋がりがその殆どであったのかも知れない。しかし、ドバイを見れば分かるように、今や世界の金融市場の中でも確実にその地位を高めてきている。資金供給源としてのイスラム金融は重要な役割を担っている。世銀や日本の国際協力銀行がイスラム債と協調し始めていることはご存じのとおりである。
世界の中で13億人はイスラム教徒であり、もはやグローバル化の中でイスラム文化を理解せずに政治や経済を語ることは出来ない。イスラム教はアラビア半島で生まれたという地理的な遠さ、あるいは日本人の日常とは余りにも離れた自然環境と文化の中にあるという事情ゆえに、その姿は理解されにくかったが、この本を読めばイスラム教の歴史の流れを比較的分かり易く捉えることが出来る。
最後の「対談」の部分で、作家の塩野さんが書いているように、コーランが世界を変えたことは事実であり、読者がその全てを理解できるかどうかは別として、イスラムを知るための教養書として本書を読んでおくことをお勧めする。
この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2008年8月25日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>