岸田内閣への期待 (2021/10/9)
早速発足した岸田内閣。発足当初のご祝儀相場というのがあるが、調査結果を見る限り、支持率は余り高くない。朝日新聞の世論調査結果では、支持率が45%、不支持率が20%。これは、2001年の小泉内閣以降、麻生内閣の48%を下回る最低の支持率だという*1/。
岸田首相、自民党を巡る世論の厳しさはよく分かっており、まずは目前に控える衆議院選に勝たねばならない。政策に係る発言も、これまでの安倍政権、菅政権の流れとは違う独自色を打ち出す。
彼の言葉で頻出するのが「分配」である。所信演説では、経済政策の「両輪は成長戦略と分配戦略」、「分配なくして次の成長なし」と語った。半面、成長を阻む規制の撤廃などの「改革」には言及していない。
池田首相に倣った「令和版所得倍増」を看板政策 に掲げ、富裕層の富を低所得層や中間層に移転する「分配」を強調する。しかし、そこには成長戦略は読み取れない。経済全体のパイを大きくする具体的な方策がないまま、富の再配分を行ったところで成長には繋がらない。
コロナ禍で生活に窮している人がいることは事実であり、そのような人達に対する財政資金からの救済は必要である。ただし、これは緊急対策であり、中長期的な経済政策とは別次元の話である。
配分の柱として給与水準を上げることも、これまでの発言で触れている。企業が内部留保として貯め込んだ金を社員に配分せよという話が野党の口から良く出て来るが、潤沢な内部留保を持っているのは一部の企業でしかない。世間にあまた存在する企業に当てはまるものではない。大方の企業は、給与を上げろと言われても、それに答えられるわけではない。
日本が直面する問題は、先進国の中でも極めて見劣りする生産性の低さである。経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、2020年の日本の労働時間あたりの付加価値生産は48ドルにとどまり、先進7カ国の平均値65ドルを三割下回る断トツの最下位である。一方、米国は日本の1.5倍の付加価値生産性を示す*2/。
失われた30年を引き合いに出すまでもなく、日本の経済成長が停滞した一番の理由は、構造改革できないままに付加価値生産が上がらず、無為に時間を過ごしたことにある。
より多くの収入を得たいのであれば、より生産性の高い仕事をするしかない。企業も人も、時代が求める新しい能力を身に付ける努力無くして、生産性の向上はありえない。デジタル化への対応の遅れは、その最たるモノであろう。
安倍首相が掲げた「三本の矢」の成果が必ずしも達成できなかった原因は、一本目の「大胆な金融政策」、二本目の「機動的な財政政策」までは実行したが、三本目の「民間投資を喚起する成長戦略」が中途半端に終わったことにある。言うまでもなく、規制緩和が進まなかった。
残念ながら、岸田首相の政策には具体的な成長戦略が無い。幾ら「所得倍増」、「配分」を叫んだところで、私には日本の明るい未来は描けない。
*1/ 朝日新聞(2021年10月6日)
*2/ 日本経済新聞(2021年10月9日)