プーチンの戦争とロシア経済 (2024/11/23)

 

 

プーチンがウクライナに仕掛けた戦争はやがて3年になろうとする。大統領選で勝利したトランプが選挙中から言っていたように、ウクライナに対する最大の軍事支援国である米国は、新政権下で戦争を終わらせようという方向に向かうのだろう。

 

プーチンもそれを意識しており、停戦時点での占領地域を少しでも拡大しようと、この夏以降、兵士の大きな損害1/も顧みず、猛烈な攻撃を継続している。しかし、それには人命だけでなく、経済的にも大きなコストを支払うことになる。

 

ではこの戦争で、ロシアはどのくらいの経済的代償を払っているのだろうか。

 

まず経済成長は西側の制裁にも拘わらず、GDP成長率は昨年が3.9%、今年が推定3.8%である2/。つまり見かけ上、ロシアの経済は順調に見えるが、そこには大きな歪みがある。経済成長は政府支出による軍事産業の付加価値生産によって保たれている。

 

政府の軍事と情報機関への支出は財政の40%を超え、GDP8%に及ぶ。戦時下でこの程度の数字は奇異ではない。古くは第二次世界大戦時、あるいはベトナム戦争時の米国でも同じであった。しかし、問題はインフレである。戦争当時、米国や英国はインフレを抑えるために、低金利政策を取り、政府財政赤字を抑えた。

 

一方、現在のロシアのインフレ率は8%を超え、政策金利は21%に上がった。10年物国際の金利は戦争を挟んで6%から16%に上がった。とどのつまり、政府の資金調達コストは大きく上昇した。

 

インフレにより、為替レートはルーブル安に進む(図参照)。そうすれば、輸入する民間の消費財に加えて、軍事生産に不可欠な様々な資材、とりわけ半導体の調達コストは上昇する。一方、西側の制裁が続く中で欧米や日本からの供給は途絶え、輸入は唯一中国に依存せざるを得ない。

 

出所: ex.com

図 ルーブルの対米ドル為替レートの推移

 

金利の上昇とインフレは、企業の資金調達や庶民の住宅ローンの支払いコストを上昇させる。政府は企業向け融資や住宅ローンの補助を行って来たが、いつまでもそれを続けられるわけではない3/。そうなれば、経済は冷え込む事になる。事実、企業倒産は今年に入って20%増加した4/

 

IMFの経済見通しでは、来年のGDP成長率は1.9%に下落する。プーチンの戦争はウクライナでの戦闘ばかりではない。インフレと高金利、そして景気の落ち込みに対処できなければ、今度は国内の経済混乱が起きる。

 

 

 

 

1/     BBCはロシア軍の戦死者を5万人、2年目以降では27300名を超える死者を出したと報じた(BBC News 2024/8/18)。また、ここに来て戦死者の数は増えており、英国防省はこの9月に一日あたりの戦死者が1271名になったと発表した(毎日新聞ウェブ版2024/10/8)。

2/     IMFWorld Economic Outlook, 2024 October

3/     住宅ローンへの補助は71日で終了した。

4/     The Economist, Nov 18th 2024

 

 

 

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