『ただの眠りを』
ローレンス オズボーン(著),田口俊樹(訳) 2020年1月 早川書房
私はそれほどフィクションを読むわけではないが、たまたま新聞の書評を目にしたことで、この本を手にすることになった。
原文は『Only to Sleep: A Philip Marlowe Novel』。英文には、口語的な表現がかなり出てくる。勉強にはなるが、読んでいると突っかかるかも知れない。また物語の舞台がメキシコなので、スペイン語があちらこちらにちりばめられている。それも英語の読み難さの一因になっているかもしれない。
私にとって、フィリップ・マーローの探偵小説は1950年代、60年代のアメリカの雰囲気をタップリと醸し出してくれる。
そもそもこの小説、レイモンド・チャンドラーが生み出したハードボイルド推理小説であり、1930年代から40年代に出された(残念ながら、その頃未だ私は生まれていない)。
チャンドラーを引き継いで、何人かの作家が探偵マーローの後日談を公認小説として出版した。この『ただの眠りを』はオズボーンの手による最新作である。
「タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない。」
そんなマーローも歳を取り、今や72才になった。
メキシコで隠居生活を送っていたマーローではあるが、その歳で保険会社の依頼でメキシコを舞台にホシの身辺調査を行う羽目となる。そのホシの追跡には、お決まりのように、とびっきり別嬪の悪女がもちろん入っている。
マーローには常に孤独が付きまとい、夢の中に昔の思い出がしばしば現れてくる。そんな場面がちょっと時代遅れではあるが、小説の中でタップリと描かれる。また、周りの風景描写にも孤独さ、繊細さがよく醸し出されている。そんなわけで、英語版で読んだ方が小説の雰囲気にはよく浸れるだろう。
72才の老いぼれ元探偵。私もそれに近い年である。何となくマーローに感情移入をしつつ、小説の流れにのめり込んでしまった。