SATP細胞――小保方氏会見とその後 (2014/4/12)
理化学研究所が小保方氏のネイチャー誌への投稿論文について二点で不正があったと結論づけたことに対して、小保方氏が反論の会見を開いたのが4月9日であった。この問題は、人々の強い関心を引きつけ、マスコミも大きく取り上げた。マスメディアは、彼女の言葉が信じられるのか信じられないのかという非常に情緒的な話から、STAP細胞が本当にあるのかないのかという真偽の話まで、様々な形で会見内容を取り上げた。しかし、私は問題を二点に絞って議論した方がよいと感じている。
第一の論点は、理研が結論として不正行為と認定した次の二点についてである。
@ STAP細胞からできた組織の画像が彼女の博士論文の画像を使っているので、これは「捏造」にあたる。
A 遺伝子解析の画像が切り貼りされており、これは「不正」にあたる。
ちなみに、その他の疑問4点については、中間報告と最終報告は「不正ではない」と結論づけている。理研の不正認定に対して、彼女は画像の取り違いは自ら気が付き、既にネイチャー誌に訂正を申し出ていたこと、解析画像は比較対象(レファレンス)と比べやすくするために、斜めになった写真の角度を訂正し、同じ大きさとなるように縮小したものであると説明した。言い訳の出来ない過失であるが、悪意を持って意図したのもではないというのが彼女の反論である。
論点は、理研の「捏造」と「不正」という判断が妥当性を持つのか、小保方氏の言うように「悪意を持って行ったものではない」、つまりとんでもないウッカリであったという説明が合理性を持つのかということであろう。科学者の世界では、これは捏造や不正と判断することが正しいという認識がある一方で、法律家の間では(多分、一般人の日本語としての理解でも)、捏造とは事実でないことをでっち上げることであり、妥当な言葉ではないという判断がある。
第二の論点は、理研がこの調査報告結果を出すに至った過程が十分なものであったのかという点である。
これについては非常に疑義がある。調査委員会が予備調査を実施したのが2月13日〜17日、本格調査は2月20日〜3月31日の間で行われ、最終報告が最終日の3月31日に発表された。私には、理研が相当拙速に調査を進めたという印象がある。理研の規定では、調査期間は概ね150日以内とあり、今回は40日ほどでこれを終了している。かなり結論を急いだようである。しかもその内容は全ての責任が小保方氏個人に帰するというものであった。つまり理研の組織としての責任は全くないというわけである。
理研がSTAP細胞作成の成功を大々的に取り上げ、マスメディアを使って広報活動を行ったのが1月29日であった。この時の大騒ぎはご存じのとおりである。ところが論文に疑義が生じた後は、手のひらを返したように、小保方氏に全ての責任を押しつけることになる。
穿った見方をすれば、この時期、理研が「特定国立研究開発法人(仮称)」の指定対象となり、政府内部でその可否が検討されていたことが大きく影響していたのだろう。この論文不正問題で、政府からは理研のガバナンス体制が問われ、問題の原因究明が求められていた。このような事情から、理研は結論を急いだのではないかと思われる。
論文の不正問題の原因は、小保方氏もはっきり認めているように、論文を書く過程でウッカリと杜撰さが招いた結果であろう。しかし理研の調査報告も、理研の組織的な責任を否定するという結論ありきで拙速に進められたという印象は否めない。