核拡散と核の傘 (2024/8/19)
8月9日からもう10日も過ぎてしまったが、長崎原爆の日の式典にイスラエルを招待しなかったことで英米大使が参加を取りやめたことが話題となった。原水爆の禁止は人々の願いではあるが、世界の現実はそれに逆行しつつある。
かつて、核兵器削減は米ソの2国間の交渉で解決できる問題であった。ソ連の崩壊と軍事費削減の結果、1986年から2023年の間に世界の核兵弾頭の数は7万発から1万2000発に削減した。
しかし、今や核保有国とおそらく核を持っているであろう国々の間で管理不可能な競争が起き、核兵器使用の可能性はより不確実化し、そして予測不可能なものになってしまった。更に悪いことには、唯々妄想に囚われるとしか思えない人物が核のボタンを持つようになった。
ウクライナを侵略したロシアのプーチンは核の使用をほのめかし、今年2月には新戦略兵器削減条約(新START1/)の履行停止を宣言した。中国の習近平に米国との間で核兵器削減の交渉を進める気などなく、現状でおそらく数百発と見られる核弾頭は2035年までに1000発に拡大するだろう。
パキスタンとインドが既に核保有国であることは自明である。北朝鮮の金正恩は核開発プログラムの強化を明言し、北朝鮮の核ミサイルはすでに米国本土に届く水準にある。イランがいずれ核保有する事は想像に難くない。イスラエルは核の保有を肯定も否定もしていない(おそらく数十発を保有すると言われる2/)。
北朝鮮の核武装を背景に、韓国では核を持つべきという声が高まっている(国民の70%が支持していると伝えられる)。
日本と欧州(NATO諸国)は米国の核の傘の下にあるが、もしトランプが大統領の座につけば、米国が自国に対する核攻撃のリスクを冒してまで同盟国を守ろうとするかどうか極めて疑問となる。そもそも、ロシア、中国、イランといった国が核の使用を躊躇わないのであれば、米国だけの力で核抑止力を維持するのは難しいだろう。否が応でも、米国は核兵器の近代化と戦略の見直しを迫られることになる。
1/
Strategic
Arms Reduction Treaty
2/
イスラエルは1960年代からネゲヴ核開発センターで本格的な核開発の研究を行っている。