ノーベル賞受賞者と頭脳のグローバル化 (2008.10.9

 

 経済の先行きが不透明となり、世のなか暗い話ばかりで沈滞感が漂っているところに、ノーベル賞の物理と化学部門で4人の日本人が受賞したとの知らせは、久々に明るい話題となった。

 

 この日本人の受賞に絡んで、ちょっとおもしろい記事が出ていた。海外のメディアは、物理学賞の受賞者は日本人が2名、米国人が1名と発表しているというものである。確かに、南部さんは1952年に渡米し、すでに米国籍を取得しているのだから、海外の報道の方が正しいのだろう。化学賞を受けた下村さんは日本国籍を持ったままであるが、経歴を見る限り、研究活動のほとんどを米国で行っている。

 

 このような状況を日本からの頭脳流出と捉える向きがあり、海外、とりわけ米国との比較で日本の研究環境が貧しいからだという声が上がっている。3名の物理学賞受賞の発表があった翌8日には、河村官房長官が、日米欧などが進める巨大粒子加速器「国際リニアコライダー」(ILC)計画について、「政府として本格的に取り組むときが来た。関係府省で検討する仕組みをつくる必要がある」と述べ、日本国内への誘致に前向きな姿勢を示した、との報道があった。

 

 研究者の活動も経済と同様にグローバル化している。頭脳流出という偏狭なとらえ方ではなく、頭脳の国際的な流動化といった方がよいだろう。研究者にとって、国内外にかかわらず、自分の研究領域でより望ましい環境があればそこに移ればよい。むしろ日本も、日本人研究者を呼び戻すという発想よりも、世界中から優れた人材を集めるための環境を整えましょう、という考えの方が望ましい。日本の研究環境が優れているから日本の国籍を取ろうという外国人がいれば、なおのことすばらしい。そこまで行かなくとも、外国人にとって居心地のよい研究環境を提供することは、日本にとっても大いなる利益である。

 

 使い古された言葉であるが産業の空洞化が言われ、すでに20年以上も経つ。成熟化した日本社会を前提とすれば、より知的な、付加価値の高い産業を起こすことは今更言うまでもない。この点で、学術研究も一つの産業として考えてよい。優れた研究者が集まり、それが大学と結びつき、教育、研究活動により地域の経済が活性化する。イギリスのケンブリッジやオックスフォードはそのような町である。ボストンもハーバードやMITを抱える学術都市といえる。

 

 老齢化社会を迎え、フィリピンやインドネシアから看護師やヘルパーを迎えようという話がある。それも必要であるが、同様に東南アジアから優秀な頭脳を日本に迎え入れ、基礎研究開発分野で経済の活性化を図るというビジョンがあってもよいではないか。

 

 地方経済の落ち込みが激しいことから、高速道路さえ作れば産業が誘致出来ると叫んでいる代議士や知事は結構いるが、基礎研究や学問のための環境を整えるので、是非とも地方に研究者を呼び寄せよう、という政治家が出ないのはなぜだろう。おそらく、東京でなければ人材が集まらないと単純に考えているのであろうが、研究機能までが首都圏に一極集中しているのは日本ぐらいである。先ほどの、オックスフォードやケンブリッジは田舎町である。ボストンも歴史はあるが、大都市ではない。プリンストンもしかりである。さらに付け加えれば、西海岸では、カリフォルニア大のバークレー、スタンフォード大も大都市から離れている。

 

 最後に、受賞に係わる記事の中で、尾崎玲於奈さんがこれまたおもしろいコメントを出していた。海外から頭脳を集めるためには、外国人にとって居心地のよい環境を提供することであり、二重国籍を認めることもあってよいではないか、という趣旨であったと思う。確かに欧米では、二重国籍は別に珍しいことではない。狭いナショナリズムに縛られるよりも、日本的なアイデンティティを重視することの方が日本の将来にとって役に立つ。インド系日本人や、カナダにも国籍を持つ中国系日本人研究者がいて、なんら困ることはなかろう。

 

 

SY01265_古い出来事」目次に戻る。

 

door「ホームページ」に戻る。