2021年ノーベル物理学賞 (2021/10/5)

 

 

今年のノーベル物理学賞は、プリンストン大学の鍋真淑郎、独マックス・プランク気象学研究所のクラウス・ハッセルマン、そしてイタリアのローマ・サピエンツァ大学のジョルジオ・パリシの3名に与えられた。日本のメディアは、日本人が受賞したと報道しているが、真鍋さんは米国に帰化しているので国籍(Nationality)は米国人が正しい。

 

真鍋さんに驚かされたのは、90才というお歳ながら、現在もプリンストン大学の教授(大気海洋科学プログラムの上級気象学者)1/として現役で仕事をされておられることである。私が彼の年になるにはまだ20年ほどあるが、それまでバリバリの現役を続けられるかと問われれば、黙りこくるしかない(そもそも、その年まで生きながらえる自信が私には無い)。

 

彼の経歴を見ると、東大を卒業し、1958年以降はほとんど米国で研究を行っている。私が丁度小学校2年生くらいの頃である。当時の日本はやっと戦後に一区切りをつけた段階で、大学で研究するための環境も整っていなかったのだと思う。60年代頃、頭脳の海外流出がよく話題に上った事を覚えている。

 

さて、この受賞のニュースが入る3日ほど前、朝日新聞のウェブニュースに「ノーベル賞、2008年以降15人 一方で低下する日本の研究力」という記事2/があった。2008年以降、日本人の受賞が続く一方で、研究力が低下しているというものである。国際的に引用される論文が質、数ともに国際的な地位が低下している。最近の順位で言えばG7では最下位、インドにも抜かれている。

 

今回受賞した真鍋さんが渡米した当時であれば、日本はまだ豊かでなく、学術に資金が廻らなかったのは致し方ないが、今の大学を巡る研究環境の厳しさは余りにもひどすぎる。大きな原因の一つに、国が大学に廻す資金をケチったことにある。選択と集中というわけで、成果の出そうにない基礎研究は疎かにされ、実用化に結びつく研究ばかりを重視した。

 

もう一つは、大学を選別して研究費の配分を絞り込んだことである。その始まりが、大学構造改革の一環として20年ほど前に始まった「21世紀COEプログラム」であった。理工分野で言えば、ほとんどの予算は旧帝大と東工大に振り向けられた。ノーベル賞を受賞された尾崎玲於奈さんが、このプログラムを大変批判していた事を覚えている。その理由として、基礎研究を始めから絞り込むことなど出来るはずないこと、またこのプログラムが研究費を旧帝大に集中的に振り向けるための仕組みになっていることを挙げていたと記憶する。

 

その後、文科省は2007年に世界トップレベル研究拠点プログラムを立ち上げ、2016年に国立大学を三分類化3/2017年からは「指定国立大学法人」制度を導入して、さらに選別を進めた。文科省の目論見では、これによって世界的に評価される日本の大学が育つはずであったが、現実は全くそうなっていない。世界の大学のランキングを見れば一目瞭然である4/

 

指定国立大学法人制度を見てのとおり、東京圏の大学がそのほとんど、東京以外では東北大、京都大、大阪大、名古屋大の四つだけである。国が極端な予算の傾斜配分をした結果、とりわけ地方大学は予算不足に追い込まれ、研究者を目指すことが極めて難しくなってしまった。霞が関の発想は、地方にいる若者は研究者を目指すなど大それた事は考えず、地道に職を探せという事なのだろう。

 

さらに、国が研究費をケチった結果、博士課程を終えても生活の見通しが立たない。これでは研究者の道を志すことはとても難しい。

 

今更ながらの話であるが、資源のない日本が今後も豊かな生活を維持するには人に投資するしかない。幅広く学術を振興し、知価を高め続けることこそ、国の発展の礎である。

 

 

*1/  https://www.princeton.edu/news/2021/10/05/princetons-syukuro-manabe-receives-nobel-prize-physics

*2/  https://digital.asahi.com/articles/ASP9X4672P9PULBJ010.html?iref=pc_ss_date_article

*3/       3グループとは、世界最高水準の教育研究」、「特定の分野で世界的な教育研究」、「地域活性化の中核」の三つ。

*4/       英国の高等教育情報誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が発表した今年度版の「THE世界大学ランキング2021」では、100位以内に入っている大学は米国が37校、英国が11校、ドイツとオランダが各7校、オーストラリアと中国が各6校、カナダが5大学、スイスが4大学、シンガポールと香港が各3大学、そして日本は東大と京大の2校のみである。

            上位200校のアジアの顔ぶれを見れば、日本の地盤沈下はさらに明確である。中国は10校、韓国は6校、香港は5校が入ったが、日本は前述の2校だけである。

 

 

 

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