『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』 川口マーン惠美 20207 KADOKAWA

 

 

今や電気自動車(EV)への流れが一気に加速しつつある。それを推し進めようとする力が地球温暖化問題に起因することは事実であるが、その裏には国家の産業政策、自動車産業を巡る大きな地殻変動、そして情報通信技術(ICT)の急速な発展がある。

 

産業政策という点では、中国がその口火を切った。内燃機関を駆逐し、電気を動力とすることで、欧米そして日本が圧倒的に優位に立つ自動車産業のパラダイムを壊し、中国がこの産業の主導権を取ろうという国家の野望である。さらに米国に対して挑もうとするICTを電動車と融合させることで、中国は技術と産業の覇権を確立しようと狙う。

 

一方、産業界に目を向ければ、ICTの覇者が自動車産業を牛耳るかも知れない。自動運転の技術では、自動車会社よりも米国のグーグルや中国の百度(バイドゥ)が明らかに先行する。ICT企業にとって、自動車とは単なる箱に過ぎないと映る。アップルも自動車に進出すると発表している。そうなると既存の自動車企業は部品を組み立てるだけの存在に追い込まれる。

 

著者は、コペルニクス的な発想の転換が起きつつある自動車産業について、産業論、各国の戦略、技術の進歩、そして矢面に立たされている自動メーカを軸に、新たなる世界経済戦争という視点から分かりやすく分析する。

 

個人的に面白いと感じたのは、ドイツの自動車事情である。中国や米国に比べて日本はハイブリッドばかりでEVの導入が遅れている。しかし著者は、ドイツは日本以上に遅れていると言う。2018年のドイツでのEVの登録台数は36062台、一方、日本での日産リーフの売上は85000台であった。ドイツの自動車メーカが意欲的なEV生産計画を打ち出しているので、これは少々意外であった。

 

もう一つ遅れている分野が高速通信ネットワークの普及だと言う。光ファイバーの普及率は、日本がほぼ80%であるのに対して、ドイツは僅か3.2%に留まる。これは自動運転を普及させるには余りにも高いハードルになる。

 

EVと自動運転が自動車産業の構造を変えた時には、米国か中国が覇者となる可能性が高い。そこに日本が割り込めるかどうかは、メーカの事業戦略、政府の政策、そして基礎技術開発を担う学問の世界の連携が必須、というのが著者のご託宣である。

 

 

 

 

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