年金問題 (2007/5/31

 

今夜の国会は、年金時効特例法案の審議で大もめになりそうである。

 

年金問題はなぜこれほどに国民の不信感をあおり続けるのだろう。今回の問題の発端は5000万件に及ぶ年金記録漏れにある。社会保険庁は、この5000万件は5000万人の受給者が記録に間違いがあったという意味ではなく、今回の特例法の対象者は25万人程度になるだけと言うが、この数字はやはり尋常ではない。

 

これが金融機関や保険会社が管理する顧客口座の間違いだったら、どうであろう。そもそもこのような数千万件という誤りの数字はあり得ないし、そのようなことがあれば、即倒産である。所詮、社会保険庁の年金管理運営とは「親方日の丸」でしかなかったと言われても、弁解の余地はなかろう。

 

これまでも社会保険庁の杜撰な資金運営が明らかになるたびに、国民年金に対する不信感は高まるばかりであった。

 

年金は破綻しているのではないかと騒がれ始めた2000年代の初め、厚生省は年金の積立金をグリーンピアや厚生年金ホールの建設に使っていたが、実はその資金運営が破綻しており、被保険者が望んでもいないハコモノに勝手に金を使い莫大な損害を被っていることが明らかとなった。

 

その後、保険金未納者の問題が表に出ると、今度はその未納者のデータを数多くの職員が覗き見ていたことが暴露され、個人情報の管理のいい加減さで、社会保険庁はまたもや叩かれる羽目となる。

 

それだけでは終わらなかった。今度は、年金納付率を上げるために、現場では未払い者の免除措置を利用して、見かけ上、納付率の向上を図るというスキャンダルが発生した。この話は、少々わかりにくいかも知れないが、社会保険庁の統計によれば、2005年度末で国民年金の加入者総数は7048万人である。うち、自営業や学生、無職の人が対象となる第1号被保険者が2190万人、サラリーマン(大半は厚生年金に加入)が対象となる第2号被保険者が3766万人、サラリーマンの妻が対象となる第3号被保険者が1092万人いる。

 

社会保険庁は、この7048万人という数字に対して、未納者は374万人、未加入者が27万人いるが、これらの合計401万人は加入対象者の5%ほどと発表している。何だ、保険料を払っていない人はほんの一握りではないかと思ってしまうが、ここにはトリックがある。

 

そもそも、社会保険庁は保険料納付者の中に免除者を含めている。つまり、免除者は保険料を払っていなくても、法的に免除されているのだから、納付していることと同じであるという理屈である。ちなみに、第1号被保険者数のうち538万人は保険料を全額免除、納付特例、あるいは納付猶予されている。つまり、第1号被保険者のうち25%は保険料を払っていないが、合法的なので未納者ではないという、下々にはよく分からない話になっている。

 

もう一つこの年金納付問題で、素人に分かりにくい数字が未納者や納付率の話である。未納者とは、第1号被保険者のうち、過去2年間に1月も保険料を納付しなかった者という定義である。逆を言えば1月だけ払っていれば、残りの23カ月が支払われていなくとも、とりあえず未納者には入らないということになる。

 

次に納付率とは、納付月数を納付対象月数で割った百分率である。ごく簡単に言えば、1年は12カ月あるから、きちんと12カ月保険料を納めていれば納付率は100%となるが、6カ月だけ払ったものの、残り6カ月を払わなければ納付率は50%ということになる。2005年度で見ると納付率は67%ほどであり、三分の一の月数が支払われていない勘定となる。

 

社会保険庁は、これではまずいので、この低い納付率を2007年度分で80%にまで上げるという目標を掲げ、各地の保険事務所のケツを叩いた。

 

ところがこの納付対象月数には、全額免除月数や学生納付特例月数が含まれない。ここに再びトリックが出てくる。納付率を上げるためには、分子の納付月数を上げるか、分母の納付対象月数を下げるか、という二通りの対策がある。

 

前者は当然健全な方法である。あなたは払うべき保険料を払っていないので、きっちり払ってくださいと催促するわけである。ところが、後者は私の目から見ればごまかしのつじつま合わせである。ケツを叩かれた保険事務所は、未納分を取り立てるのは大変だから、払っていない人を合法的に免除や特例の対象者にしてしまい、分母を小さくして納付率を上げるという事件が起きた。まさにお役人の発想である。

 

さて、今夜の国会での与野党の攻防に話を戻そう。与党は年金時効特例法案と社会保険庁改革関連法案を通して、年金問題というよりは社会保険庁がこれまで引き起こしてきた問題を解決しようとしている。ちなみに、後者の改革関連法案は、2010年に現在の社会保険庁を廃止して、非公務員型の日本年金機構に衣替えすることが柱である。

 

しかし、衣だけ替えても中身(職員)が同じでは、本当に問題の解決につながるのであろうかという思いは、私の単なる杞憂であろうか。

 

 

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