原子力安全・保安院やらせ事件 (2011/7/30)

 

 

今回の原子力安全・保安院のやらせ事件は、これまで官民政が一体化して進めてきた原子力推進の負の側面が一気に吹き出した、と考えるべきであろう。

 

所詮、経済産業省の中に置かれていれば、肝心の規制官庁までが原子力推進の旗振りに回るのは、至極当然である。そもそも、原子力安全・保安院が設立されたときに、このような事態になることは予想されていたことである。保安院を外局として傘下に置くという経産省のごり押しを認めたのは、当時の自民党であった。

 

いまさら、規制官庁の中立性云々の話でもあるまい。かつての大蔵省が「ノーパンしゃぶしゃぶ」のスキャンダルにより、検査監督部門を切り離し、金融監督庁を経て現在の金融庁に至った話と同じである。「ノーパンしゃぶしゃぶ」が「やらせ」に形を変えただけにすぎない。本来利害が背反すべき組織が一つの屋根の下にいれば腐敗するのは当たり前の話である。これで、保安院の分離に向けて、政治が一気に加速する。

 

皮肉なのは、保安院のやらせが、そもそも九電のやらせメール事件が発端となり、経産省が電力各社に調査を指示し、その結果から、逆にあぶり出されてしまったことである。また、調査結果とその発表の仕方を見ると、電力各社の企業倫理観の違いも明確に出ている。

 

調査結果に最も大きな危機感を持ったのは中部電力であった。水野社長自らが、2007年に浜岡原発のある静岡で開催したシンポジウムで、保安院の指示に応じて社員、下請け、町内会を動員したことを認め、報道の場に臨んだ。加えて、会場でのやらせ発言は法令遵守の面で問題があり、保安院の指示を拒否したことも明らかにした。中電はこれらの一連の行為が企業倫理に反することを明確にわびている。やらせ問題は、決して隠しおおせる話ではなく、隠せば隠すほど悪い結果を招くことを認識した上での、苦渋の判断であったという。

 

対照的な対応をしたのが四国電力である。四電は2006年に原発のある伊方町で開いたシンポジウムで、保安院の指示どおり、社員の動員とやらせ発言を行っている。調査対象となった七社のうち、最も悪質であった。しかも、今回の発表では、煮え切らない言い訳をしている。広報部が新聞社に対して行ったコメントは、「誤解を招く行為ではあるが、強制していないので、やらせではない」というものである。私には、「やらせでなければ、そそのかし」としか見えない。中電と四電の対応の違いは何であろうか。地域性なのか、企業風土なのか、それとも、そもそも経営者の倫理観が違うのだろうか。

 

これで、原発を取り巻く環境はますます悪くなってしまった。原子力の安全性の議論の難しさは、工学技術としての問題よりも、それを推進する体制、監視・規制の仕組み、そして国民との対話能力の問題の方が遙かに大きいことを示している。

 

 

 

 

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