NHKBBCに匹敵するか (2007/3/30)

 

NHKの聴取料を支払い義務とする根拠にBBCとの比較がある。曰く、公共放送の支払いを義務化する例は欧州にもある。BBCがその典型であるというわけだ。

 

しかし、議論すべきはNHKBBCに匹敵するだけの公正性、メディアとしての主張を持っているかという点である。私に言わせれば、とても「比較するに値しない」。

 

英国軍のイラク参戦を巡って、BBCが政府と対立し、最後は総裁が辞任した事がある。BBCにとって、真実を国民に伝えることはその使命であり、例え政府とぶつかったとしてもそれをすべきという信念がある。このような行動はNHKには絶対にありえない。

 

裁判沙汰になったあの慰安婦問題を取り扱った戦争番組の報道を巡っては、私の記憶では、NHKの経営は事前に自民党の政治家に話をしたが、それはNHKの業務の一環として行ったものであるという趣旨の発言を行っている。悲しいかなNHKの経営層には、与党の政治家と戦ってまで報道の中立性を守という気概はとてもない。

 

もう一つ、BBCにはハードトークという結構看板となっている番組がある。政治家などもこれに出演し、かなりきわどく、ずばずばと核心を突いた論争が行われる。ゲストを相手に、丁々発止、なかなかの論争である(確か、パキスタンのムシャラフ首相もこれに出たことがあったと記憶している)。日本であれば田原総一朗などは、結構歯に衣を着せず、辛辣な議論をふっかけた議論をするが、NHKでは決して彼のような討論は取り扱わないだろう。

 

政治的な軋轢を避けようとする体質に加え、BBCと比べて、NHKが決定的に劣っているのが国際放送である。私は仕事柄アジアやアフリカの途上国で仕事をすることが多い。仕事を片付けるのにホテルに籠もりっきりになることがあり、なんとなしに部屋のテレビのスイッチを入れることもある。途上国は日本に比べれば遙かに衛星放送が発達しており、BBCCNN、ディスカバリーチャネルなど国際的な番組がいくらでも入る。当然、日本人泊まり客用にNHKの海外放送も入るが、これはほとんど見る気が起こらない。

 

そう、NHKの番組は海外放送であって、国際放送ではないのです。両者がどう違うかと言えば、海外放送は海外にいる日本人に日本のニュースや番組をお届けしましょうというだけであり、グローバル化などと言う発想は全然ない。内容を見る限り、日本の番組を組み直しただけとしか思えない(何せ、日本でテレビを見ないので、推測でしかモノが言えない)。

 

BBCだけでなく、CNNもこの点で完全に世界に軸足を置いている。アジアであればアジアの問題を取り扱うし、アフリカであればアフリカを中心に番組を組み立てようとしている。少なくとも、NHKのように自国の与太番組を流すという事はない。CNNなどは、ニュース番組だけというその性格から、地域の話題を徹底的に出してくる。例えば、これはウェッブになるがCNNアラビック・ドット・コムというサイトを提供しており、番組の中でも地域性を追求する。

 

今回、アンマンで二週間ほど仕事をしていた時に、たまたま現地の新聞にBBCの話が載っていた(3/16-17付けThe Jordan Times)。大学生を対象にBBCのニューズメーカー(ラジオ番組)という放送のために、主にヨルダンの大学生向けに若手のジャーナリストの競技会を開催するというものである。この競技会は、一カ月間をかけて20歳代のアマチュアのジャーナリストを対象に審査を行う。ここには英語で自己表現の出来る若い人材を育成し、将来のジャーナリストの卵を育成しようという考えがある。

 

このような国際放送に対する懐の深さがBBCNHKの圧倒的な質の違いに現れる。ちなみにBBCニューズメーカーの世界中の視聴者数は4,200万人に及ぶ。さらに、オンラインでは数百万人がアクセスする。

 

一方、国費を投入しながら進めるNHKの海外放送の質は実にお粗末なままで、国内向け番組を焼き直したとしか思えないプログラムを当たり前のように垂れ流している。BBCNHK、彼我の差は比べるに値しない。

 

(注)NHKは受信料だけで事業を運営しているかのように言っているが、これは正しくない。国際放送には国の資金が投入されている(ただし、NHKの場合は、グローバル化ではなく、単なる海外向け放送でしかない)。

 

 

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