NHK国際放送「国益」の主張? 2008/3/25

 

今日(325日)の朝日のウェッブニュースに標記の記事が出ていた。NHK経営委員長(古森重隆:富士フイルムホールディングス社長)が3月11日の経営委員会で、海外向けの国際放送では「利害が対立する問題については日本の国益を主張すべきだ。国際放送をただ強化するだけでなく一歩踏み出せ」と発言したとの内容であった。

 

この日本の国益とは何を意味するのか、明確な説明はないが、常識的に考えれば日本政府の立場を養護せよと言うことであろうか。委員長は、NHK国際放送は日本政府の代弁者となるべきだと主張したかったのであろう。この記事を読んで、またもやNHKにはがっかりさせられた。いまさら、報道機関の役割とは何であるかを言わざるを得ないのは、余りにも情けない。自ら政権にすり寄ろうとするならば、それは報道として自殺行為に等しい。

 

朝日の記事をさらに引用すれば、古森委員長は朝日新聞の取材に対して次のように答えたと伝えられる。「中国も韓国も国際放送を強化している。日本も国際放送を強化するとともに、国の立場をはっきり言わなきゃならない」。

 

韓国はどうか知らないが、中国のマスメディアが政府の規制下にあり、自由な発言が許されていないのは、ご存じのとおりである。国家が報道を統制することは政府にとっては都合がよいが、それが正義に叶うことなのか、そこまで大上段に構えなくとも、その国にとって本当に有益なのか、今更言うまでもあるまい。

 

この記事を掲載した朝日新聞も、太平洋戦争中は、政府(軍部)の主張を代弁し、日本を悲惨な戦争に導くための片棒を担いだという反省がある。もちろん、戦時中に一新聞社が軍部に刃向かうことは不可能であり、それをすれば、当事者の命すら保証されなかった時代であった。報道機関は自由を保障されなければならないし、国民としてそのような仕組みを守らなければならない。

 

その時々の政府が、必ずしも国民の多数の指示を受けているわけではない。当然反対意見は出てくる。だからこそ、政府は出来る限りマスメディアを自分たちの手でコントロールしたがる。それぞれのマスメディアが異なった主張を持つことは当たり前である。アメリカでも、ワシントンポストとニューヨークタイムスでは主張が異なる。まさに言論の多様性を認めることが重要であり、多様性を保つ仕組みを維持しなければ、その国の社会は健全とは言えない。当然、あるマスメディアが政府とぶつかる主張をすることはあり得る。どちらが正しいかを判断するのは、国民一人一人である。

 

古森委員長がいうように、政府の発言を代弁する放送機関が必要というならそれを作ればよい。ただし、それは政府系放送機関であり、国有放送である。NHKがそのような機関になりたいのならば、NHKは国有化して政府予算で運営すればよい。そして、名前もNHK国際放送ではなく、「Voice of Japan」とでもすれば分かり易いであろう。

 

以前、「NHKBBCに匹敵するか」と題する主張をブログに載せたが、今回の朝日の記事を見て、そもそもNHKBBCの経営の理念が根本から異なることを思い知らされた次第である。

 

 

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