『独裁の中国現代史――毛沢東から習近平まで』 楊海英 20192月 文春新書

 

 

今や日本の2.5倍の経済規模を誇り、いずれ米国を追い抜くとも見られる中国である。日本にとっても、経済的、政治的、そして軍事的に、極めて大きな影響力を及ぼす存在である。

 

日中国交が正常化したのが1972年、鄧小平が来日し、工業化の格差を痛感し、日本を見習わねばと言ったのが1978年であった。僅か40年で経済、そして人工知能や5Gの技術で日本を凌駕した。

 

その急速な進歩は、共産党一党独裁という極めて特殊な社会制度の下で達成された。毛沢東による共産主義というイデオロギーに基づく建国から、現在の習近平に至るまで、権力闘争と政敵の粛清、そして党に異を唱える者に対する過酷な弾圧という宿痾を抱えながら、中国共産党は強固な国家体制を確立した。

 

著者が言うように、共産党による国家支配は共産主義というイデオロギーだけでなく、中華思想がその根本にある。また、歴代の王朝と同じく、共産党とその優れた指導者だけが下々を従え、国家を治める。

 

党内の権力闘争の下で、これまで何十万、何百万人という人々が飢餓で命を落とし、あるいは政敵となった者は粛清・抹殺されていった。党は、中華思想ゆえに漢民族だけが正当なる存在であり、周辺の異民族や少数民族は漢民族に従い、その劣った思想や行いを悔い改めることが正しいと考える。

 

この歪な国家体制ではあるが、急速な経済成長を達成し、民の生活水準を上げて行った。例え、その裏に根本的な不条理があっても、党とそれに従属する解放軍は、虐げられた人々の多くの不満を力ずくで押さえつけることができた。今や、人々の通信、日々の行動、そして手にする情報もすべて共産党の管理下に置かれている。

 

しかし、民主主義を否定するこの共産党独裁を永遠に続けることは無理だろう。一時代を築いた王朝が民の不満から滅び去り、新たな王朝の誕生を繰り返してきたという歴史がそれを教える。

 

現在の中国の最大の欠陥は、共産党以外に他の代替案を持たないことである。今は経済成長を謳歌する中で、見かけ上国家は安定しているように見えるが、その成長が壊れたとき、これまで抑えてきた民の不満が一気に爆発する。

 

 

 

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