京料理(2009.6.19)
先週末は、学会発表で実に40年ぶりに京都を訪れた。私は実家を出るまで名古屋で暮らしていたので、その当時は年末の人が混まない頃を見計らって、よく京都と奈良のお寺を歩き回ったものである。高校生時代、川端康成が好きで、「古都」、「千羽鶴」といった小説を読んでいた。日本の古い文化、古い街並み、そして歴史に強く惹かれていた。
その後、大学院に進むために上京してからは、この年になるまでずっと東京暮らしである(正確には、住居は横浜であるが、完全に東京に飲み込まれている)。関西に出張する機会はあっても、京都に行くチャンスはついになかった。そんなわけで、少々センチメンタルな旅でもあった。
せっかくの京都なので、夜には「京料理」を是非楽しみたいと思い、先斗町の通り沿いに並ぶ店を覗きながら歩いてみた。加茂川に面した店では、堤防の上に桟敷席を張り出しているので(これを「床」呼ぶそうである)、川風を受けながら食事を楽しむことができる。京都ならではの風情である。
店頭のメニューを見ると、「おばんざい」とある。場所良し、品書き良し、というわけで早速中に入る。注文を頼む段階で初めて気がついたのは、ほとんどが今様の料理、ステーキや焼き肉である。前菜に若干の京風料理を出すものの、要は和洋折衷の創作料理である。同行したかみさんも、これでは京都に来た甲斐がないというわけで、結局、その店を出てしまった。やはり時代なのであろうか、先斗町とはいっても、ほとんどが飲み屋か創作料理である。店の人に聞いても、純京料理を出すところは非常に限られると言う。
それでも、どこか良い店はないものかと探し回ると、家と家の間、本当に肩幅くらいしかない路地を入った奥に、京料理を出す店があった。注意していないと店の前を通り過ぎてしまうような、奥まった所である。店の名は「先斗先多」という。ご夫婦二人で切り盛りする小ぢんまりとした店であった。一階のカウンターに席を用意してもらい、おまかせの料理をお願いした。
湯葉の刺身。これはなかなか美味であった。そして関東ではまずお目にかかれない、鱧もある。味は非常に淡泊、私の好みである。野菜もいわゆる京野菜であり、関東で手に入るものとは大きく異なる。京茄子は煮込んでも崩れることなく、歯ごたえがよい。関東では「獅子唐辛子」を天ぷらにするが、京都では「万願寺唐辛子」を使う。辛みはなく、独特の甘みを持つ。最後に生姜のご飯が出てきた。これは非常にさっぱりしており、食欲が衰える夏向きの味付けである。店の方のお話では、初めから炊き込むと、生姜がベッタリしてしまうので、炊きあがったご飯に生姜を混ぜるのがコツとのことであった。
東京は確かに巨大で、何でも揃っているように見えるが、京都には1000年を超える歴史とそこに根付いた文化がある。