『国家の崩壊』 ロバート・クーパー著 北沢格訳 20087月 日本経済新聞出版社

 

 

東西の冷戦構造が崩壊して、やがて20年が経とうとしている。グローバル化が加速するなか、経済と情報は国境の意味合いをますます弱め、国家の概念を大きく変えている。

 

工業先進国に関して言えば、国家がナショナリズムを振りかざし、他国と争うという状況はもはやなくなったと言ってよい。著者はこのような国家を国民国家とナショナリズムで成り立つ「近代国家」を超えた国家、国家間の相互依存で成り立つ「ポスト近代国家」と呼ぶ。

 

欧州諸国は欧州共同体(EC)として一つの政治的、経済的な融合体を形成し、軍事的にはNATOという形で欧州にまたがる安全保障の体系を作り上げた。もちろん欧州から政治の枠組みとして国家が消えたわけではないが、政治的、軍事的な問題はEU共通の法的な枠組みに沿って解決され、加盟各国は共同行動をとる。

 

日本はどうであろう。もはやナショナリズムを振りかざして、他のアジア諸国と軍事的に争うことはあり得ない。EUと異なり、日本と近隣諸国との間には経済と歴史的な発展の度合いに大きな違いがあり、EUのような地域統合は難しいが、日本は経済的には欧米と強い結びつきで協調し、安全保障面では米国との結びつきで成り立っている。この点で、「ポスト近代国家」に近いのだろう。

 

しかしその一方で、国家以前の混乱状況にある「プレ近代国家」も多く存在しており、それらが民族、宗教、貧困、環境など様々な問題を複雑に絡み合わせて、世界の将来を不透明にしている。

 

イラク、アフガニスタン、パレスチナ、北朝鮮、アフリカ各地、バルカン、コーカサスに見られるように、これら「プレ近代国家」が引き起こす問題が世界の平和を大きく揺るがす。問題が地域的に限定されている限り、先進国にとって、その影響はほとんどないが、テロ、大量破壊兵器の使用、そして拡散という形で、世界を巻き込むものとなった。

 

著者は、このような不透明な将来の元凶となる地域紛争、国家間紛争の解決について、外交という観点から解答を示そうとしている。21世紀の外交、平和の構築、そこであるべき外交政策について、鋭い分析と示唆を与える。もちろん外交には軍事的な圧力という裏付けは不可欠である。

 

軍事力を伴って世界中の問題に直接介入する力を持っている国は、当面、そしてかなり長期的な将来にわたっても、米国だけである。しかし、その米国も、もはや一国だけで問題を解決することは不可能である。この点で、20世紀のパックス・アメリカーナの時代は終わり、これに代わるパックス・グローバリズムの時代の構築が必要である。

 

最後に、著者は知日家でもあり、本書を出版するにあたり「日本語版への序文」を加筆し、急速に国力を拡大する中国との関係をどう捉えるべきなのか、アジアの中で日本がどのような形でリーダーシップを示すのか、EU外交官の目から見た提言をしている。

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の20081117日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

説明: 説明: SY01265_「古い書評」目次に戻る。

 

説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: door「ホームページ」に戻る。