『若者はなぜ3年で会社を辞めるのか?-年功序列が奪う日本の未来 光文社新書 270』 城繁幸著 20069月 光文社

 

 

マスメディアあるいは政治の場においても、「ワーキングプアー」や「非正規雇用者」といった雇用に関わる社会問題が大きく取り上げられるようになってきた。そこには、この10年間で大きく変化してきた企業の人事政策が影を落としている。

 

その原因は、戦後の経済発展を支えて来た日本的雇用体系である「年功序列」と「終身雇用」が崩れ始めたことにある。しかし、雇用体系が壊れ始めたといっても、ある日突然全てのシステムが一気に変わるわけではない。結局、どの企業も試行錯誤を進めながら、徐々に制度を変えていくという妥協策を採ることになる。

 

企業が無限の拡大を続けていかない限り、年功序列の雇用体系は維持できない。しかし、「成果主義」を取り入れたからといって、今までの仕組みは全てご破算というわけにもいかない。大半の日本企業が採った方法は、両者の折衷であり、すでに存在する社員については、ある程度温情的な対応を取りつつ「成果主義」根付かせていくという形に落ち着く。

 

そのあおりを受けたのは、これから就職しようとする若い人たちである。会社に入って周りを見渡せば、さほど役に立っているとは思えない中高年の役職者が高給を取る半面、自分たちの世代は、もはやそのような既得権益に預かれるわけがないことも明らかである。

 

結局、会社に滅私奉公と忠誠を尽くしたところで、10年後、20年後に今の我慢と下積みの見返りを手にすることができるとは思えない。ただ忙しく日々の仕事に追われ、不安と不満の中で時間のみが過ぎていく。それが限界に来たときに、若者は会社に見切りを付ける。

 

しかし、20年前に比べれば明らかに転職の市場は拡大したものの、さりとて欧米のように、サラリーマンが簡単に企業を替わって、その能力に合った待遇を見つけることが出来るほど、まだ日本の労働市場の流動性は高くない。これは、戦後長きにわたって築き上げられた終身雇用と年功序列の弊害でもある。

 

少なくもと日本の企業では、マネジメントを含めて専門性を追求する、あるいはそれを評価するという風土はきわめて弱かった。その結果、いくら部長であった、役員であったといったところで、そんな肩書きは他の会社では全く通用しない。経営手腕を買われて企業を渡り歩くことのできる経営者はほんの僅かしかいない。

 

著者は、若い人たちが、将来の人生設計に不安を抱えたまま、子供を作ることすらもためらってしまう今の労働環境は、年功序列という日本型雇用慣行がその元凶であると指摘する。大半の日本企業においては、終身雇用の中で既得権益を手にした中高年が、若い人たちの富と希望を吸い取っているというわけである。

 

成果主義がよいのか、年功序列がよいのか、多分、二者選択という話ではなかろう。企業規模、事業形態、企業風土によって、人事政策は変えていかねばならない。私も会社を辞めて、独立した一人である。個人にとって、会社で働くことは確かに大きな部分を占めるが、人生の全てではない。個人にとっても、企業にとっても、給与と待遇、そして仕事で何をやるかを含めて、多くの選択肢を持てる方がお互いに幸せであろう。

 

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2007115日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

SY01265_「古い書評」目次に戻る。

 

説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: door「ホームページ」に戻る。