日本型資本主義 (2009/1/11)
読売新聞の朝刊一面に「大波乱に立ち向かう」というタイトルで、インタビューを纏めた記事が連載されている。今日は、中曽根康弘氏の登場であった。彼は、世界が米国一極主義から多極主義に転換していくという話を軸に、政治、経済、社会について意見を述べている。
多極主義への変化については特に異論はないが、日本型資本主義については、考え方が少々ずれているかなという印象を受けた。彼の主張は次のようなものである。
1.米国の経済政策での自由放任主義は人間性が伴っていない。情のない資本主義であった。
2.派遣労働者の解雇問題は、米国流自由放任の小泉構造改革で規制緩和された結果である。
3.日本社会は終身雇用が原則であった。
4.いずれ、時間をかけて情を伴った人間資本主義という方向に大きく是正されていく。
1と2については、彼の考え方なので受け止めておこう。そもそも中曽根氏は、小泉改革路線には異論を唱え続けてきたので、これは彼の信ずるところなのであろう。しかし、3と4はどうであろうか。
終身雇用制が日本の原則といっているが、歴史的に見れば、日本が終身雇用制を取ったのは戦後の高度経済成長期からであり、戦前には存在しなかった。高度経済成長期には、会社も社員も、企業は常に成長・拡大し続けることが当たり前と信じており、ともに同じ夢を見ることが出来た。御神輿を担ぐ人の中に、ぶら下がっているだけの人が多少いても、あまり問題ではなかった。全体の勢いを保つことが最も重視され、皆からあまり不満の出ない年功序列と終身雇用のシステムが確立したわけである。それはそれで、幸せな時代であった。
しかし、今問題になっている派遣労働者の問題をよく考えてみよう。実は、彼らを犠牲にしているのは、まだ終身雇用制にしがみついている当該企業の中高年社員である。現状の日本は中途半端に雇用形態が変化しており、若年層や弱い立場の人が一番リスクを取る立場に追い込まれている。すでにホンダの社長が述べているように、次のリストラは正社員にも及んでくる。グローバル化が進む中で、企業は否応なしにボーダレスの競争に放り込まれている。すでにかなりの円高が進み、製造業は市場に対応して現地生産の体制をますます強化していくことになる。
日本の経済構造が進む方向は、恐らく中曽根氏の思いとは逆であろう。
こと雇用問題については、私は企業の問題と言うよりも政府の問題であったと思っている。雇用保険や年金問題を見てわかるように、政府はこれまで問題の解決を先延ばしにし続け、その責任を企業や個人に押しつけてきた。企業に終身雇用や定年制の延長を押しつけることで、本来あるべき社会としてのセイフティネットの整備をなおざりにしてきたことの方が罪は重い。
派遣労働者の問題で単に規制を強化するだけであれば、今度は本当に職に付けない人が溢れかえることにもなりかねない。日本社会を昔に戻せば幸せになれるわけではない。雇用の形態、新しい雇用を創造する社会構造の変化や改革を考えないと、本当に日本は行き詰まってしまう。