日本郵政の再官営化 (2009/11/11)

 

官営事業の民営化は世の流れと言いたいところであるが、かねてより小泉改革に批判的、とりわけ郵政民営化に強く反対していた亀井郵政改革・金融担当相が西川社長を罷免し、後釜に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を据えた。他の役員についても、積極的に改革を支援した人達は退陣を命ぜられた。要は、郵政の再官営化である。

 

そもそも、郵政四社はまだ民営化されたわけではない。現状では、単に法人格を株式会社の形態に変えたにすぎず、依然として国有会社である。民営化とは、株式上場して民間の所有となって初めてそう呼べるものである。これまで、政府もマスコミもこぞって民営化という言葉を意図的に使って来たので、国民も日本郵政が民営化されたと思っているが、決してそうではない。

 

国有会社であるが故に、今回の社長と役員の首のすげ替えも、何ら正統的な手続きも踏まないまま、亀井大臣の一存で実行に移された。つまりは、政府の有力者が経営をどうにでも変えられるということである。このままで行けば、結局、郵政は昔の姿に逆戻りである。

 

郵便事業の見直しと民営化は世界の趨勢である。先週のエコノミストにも、この話題が出ていた。郵便事業はどの国でも落ち込んでいる。最大の理由は電子メールの普及である。これにより、郵便物(手紙)の数が減っている。世界の主な郵便事業者の郵便物取扱数は、2009年で510%落ち込むと見られる。米国のポスタルサービスの昨年度の落ち込みは280億通、△14%であった。欧州の郵便事業者も、向こう10年間で郵便物の取り扱いが半分に落ち込むと予測されている。

 

郵便事業の改革や近代化は、他の先進国でもそう簡単に進んでいるわけではない。米国のポスタルサービスは大きな赤字を垂れ流し続け、年金基金の払い込みが引き延ばされている。英国のロイヤルポストは全国規模のストライキに直面している。フランスも民営化を進めようとするものの、反対が起きている。他方、民営化により、新たな成長戦略をとった国もある。ドイツポストやオランダのTNTポストである。機械化を進め、利益の出せる体質に変え、新たに宅配事業や速配サービスを展開している。欧州の例で言えば、改革に後ろ向きなフランスは国内市場にしがみつき、改革を進めるドイツポストやTNTポストは国を超えて事業拡大を図っているのが現状である。

 

さて、日本郵政の今後はどうなるのであろうか。少なくとも、企業経営の経験もない元官僚に事業改革ができるはずもないし、亀井大臣の話を聞いている限り、赤字を垂れ流し続ける「かんぽの宿」は現状維持、四つに分けた事業も実質的に再統合したいようである。

 

日本郵政の民営化は、政治家にとって大きく利権が絡む問題である。亀井大臣のように、小泉改革が貧富の差を拡大した、市場主義が社会を荒廃させたと叫んでいれば、選挙対策としての受けは良いのであろう。しかし、経済のグローバル化が加速する中で、日本は急速に活力を失ってきている。親方日の丸で、既得権益を守ることしか考えていない事業形態を続けていけば、結局、その付けは税金という形で国民が支払うことになる。

 

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