二つの国際裁判の判断 (2016/7/22)
二つの裁判のうちの一つは、7月12日にハーグの常設仲裁裁判所が、中国が主張する南シナ海の領有権を法的に根拠のないものとして否定した判決である。もう一つは、7月21日にスポーツ仲裁裁判所が、ドーピング問題で国際陸連が下したロシア陸上チームの資格停止処分についてロシアが提出した異議を却下したことである。
いずれの判決も、問題を起こした国が中国とロシアという民主主義を否定する国家であることに共通点がある。もっとも、中国は明確に共産党一党独裁を謳い民主主義を否定する一方で、ロシアは建前上それを否定してはいない。しかし、今のロシアの政治の実態はプーチン大統領の独裁体制であり、かつてのエリツィンの時代とは異なり、大統領と国会が相互に牽制しあう機能すら無くなってしまった。この点で、中国以上に問題は大きい。(が、国民はプーチンを圧倒的に支持している。)
いずれの国も、今回の裁判結果で国際的に微妙な立場に置かれる。方や国際法を守らない国、此方は国家ぐるみで不正行為を行う国という烙印である。
ふと思い起こせば、この構図、第二次大戦に突き進んだかつての日本の姿に似ている。満州国設立を契機に世界から孤立していった大日本帝国の姿である。あの当時、日本は国際連盟の常任理事国であったが、中国が満州国設立の無効と日本軍の撤退を連盟に提訴したことで日本は孤立し、1933年、連盟を脱退した。中国の提訴に対する連盟の決議結果は賛成42、反対1、棄権1であり、圧倒的多数で日本の満州での行動を否定した。連盟の日本代表であった松岡洋介は、日本に帰ると国民的英雄として迎えられた。
ハーグの仲裁裁判所が中国の主張を全面的に否定した件で、中国はまさに83年前の日本の間違いを踏襲している。中国政府は仲裁裁判の判断を紙くずと言い、国民は政府のその様な発言を讃える。既に、習政権すら沸騰するナショナリズムをコントロールできなくなっている。その結果、軍事力を持って九段線を守り通すという勇ましい声だけが高まっていく。これは、殆ど満州国当時の関東軍の行動である。
もう一つのロシアのドーピング問題、言わば国威を掛けて麻薬に走ったというものである。これも、第二次大戦中の日本と似ている。関東軍は資金を調達するため、中国でアヘン取引をした(この間の経緯は、佐野眞一著 『阿片王 満州の夜と霧』に詳しい)。戦火が激しくなり、敗戦の色濃くなった時期になると、軍は特攻隊員に覚醒剤を与え、軍事工場で働く徴用工にもその使用を勧めた。曰く、ヒロポン呑んで疲労回復、仕事の効率向上というものであった。ロシアのドーピング問題では、国はヤクを呑んで記録を伸ばそうと選手を叱咤した。
どちらの国も民主主義が根付かず、国民は世界を知ることなく、そして国家は国際ルールを受け入れることが出来ないまま暴走していく。その先にあるものは、他の国々との間の軍事的あるいは経済的な軋轢の高まりだけである。