『不都合な真実』 アル・ゴア著 枝廣淳子訳 20071月 ランダムハウス講談社

 

 

本よりも、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画の方がよく知られているかもしれない。原題は「An Inconvenient Truth」。日本語版も原本の英語版と同じ装丁で作られている。ふんだんに写真を使って視覚に訴える構成になっており、非常に読みやすい。ちなみに、原本は容易な英語で書かれている。高校生でも読みこなせるので、こちらもお勧めする。

 

ところで、この本は非常に読みやすい構成であると書いたばかりだが、むしろアル・ゴアのプレゼンテーションのうまさと言った方が適切かもしれない。地球温暖化が引き起こすであろう様々な問題の発生について、氷河の消滅、北極と南極の氷の融解など気象異常に係わる科学データと写真をうまく組み合わせて読者を説得していく。

 

アル・ゴアは、当然のことながら政治家の立場でこの本を書いている。

 

彼が副大統領を勤めた民主党クリントン政権は、地球温暖化防止のための京都議定書を支持していた。しかし、2000年に発足した共和党ブッシュ政権は、米国の政策を180度転換してしまった。

 

ブッシュ政権はエネルギー産業、とりわけ石油産業から強い支援を受けている。言うまでもなく、エネルギー産業にとって、温暖化ガスの排出制限は事業にとって大きなマイナス要因となる。彼らは業界の利益を守るため、CO2の排出と地球温暖化の因果関係、さらには地球温暖化が引き起こす様々な問題、例えば異常気象、極地の氷塊が解けることによる海面上昇などについて、科学的な因果関係を否定してきた。

 

結局、環境問題を重視するアル・ゴアは、あからさまに特定の産業の利益を守ろうとするブッシュ政権と対峙することになり、政治家としてブッシュ政権を痛烈に批判する。

 

もう一つ面白いのは、囲み記事の形でアル・ゴアの私的な話が挿入されていることである。ここでは、彼の子供時代や家族の話を書いている。

 

彼の息子は、幼い頃、交通事故に遭い、瀕死の重傷を負った。そのような経験を冷静に見つめ、彼は子供に対する親の思いを率直に述べている。

 

もう一つの挿話は、彼の姉が肺ガンで亡くなったことについての回顧録である。1960年代はアメリカでも未だ喫煙率が高く、彼女は13歳の頃からタバコを吸い始めた。それが原因で肺ガンとなり、命を落とした。当時、タバコ会社は煙草と肺ガンとの因果関係について科学的な証明が不十分であるとあからさまに宣伝し、タバコの有害説を否定した。彼は、もしその当時タバコの有害性が社会認識として共有されていれば、姉を亡くさずに済んだという思いが強く、人の健康を犠牲にしてまで利益を求めようとしたタバコ会社に対して、かなりの憎しみを持ったのである。

 

彼は、この肺ガン問題に係わるタバコ会社の行動と、CO2問題に関わるエネルギー産業の行動を重ね合わせることで、ブッシュ政権下でのアメリカの対応を非難している。

 

さて、我々の周りを見ても、京都議定書が議決された10年前は、まだ地球温暖化の影響を身近に感じる状況とは言い難かった。しかし、近年の異常な台風の襲来や暖冬を経験して、多くの人はこれがもはや遠い将来の話でないことを感じ始めている。ビジネスマンおよびビジネスウーマンの方々も、仕事を離れた休日に一度この本を読むことをお勧めする。

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2007918日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

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