『陰謀の日本近現代史』 保阪正康 20211月 朝日新聞出版

 

 

満州事変から太平洋戦争への突入、そして敗戦に至るまでの現代史がその中心ではあるが、明治以降の一連の日本の近現代史の中で、天皇、政治家、そして軍人達がそれぞれの時代にどのような哲学や思考を持っていたのか、そしてなぜ昭和に入って軍部が独走するに至ったかを鋭く分析している。

 

関東軍が中国で引き起こした爆殺やテロ活動の謀略、米国との戦争に国を引っ張っていった昭和の軍部の思考回路には、洞察力や分析力というものがまったく欠けていた。彼らの判断基準は、きっと物事は都合のよいように進むはずだという己の主観だけであった。

 

そのような発想しかできないがゆえに、状況を分析し、相手を客観的に判断することができない。一方、米軍は太平洋戦争開始前の日米交渉、ミッドウェー海戦、山本五十六搭乗機の飛行ルートといった全ての場面において、暗号通信を傍受・解読することで、緻密な行動を取っていた。軍事以前の情報収集能力と判断能力の圧倒的な差である。

 

そもそも戦争をどう終わらせるかという戦略もないまま真珠湾を攻撃した半年後に、日本軍はミッドウェーで破れ、ガダルカナルで敗れた。その後の戦いでは、ほんの一部を除けば、日本軍は負け戦の連続であった。

 

近代戦は国家の総力戦である。工業力で米国の10分の1にも及ばない日本に勝算はないという客観的な判断が軍部にはなかった。一部にはそんな軍人もいたが、全て中枢から追い出されてしまった。

 

愚にも付かない精神論だけを振りかざし、兵を南の孤島に送り出し、その多くを補給もないまま見殺しにしていった。「一将功成りて万骨枯る」という言葉どおり、軍事政権の長であった東條英機にあったものは己の巧妙心と天皇に気に入られたいという願望だけであった。自らの軍人、政治家としての無能さを憚ることなく、米軍との戦いに勝てないことを、国民の不甲斐なさと発言し続けた。

 

東條だけではない。軍上層部は都合のよい戦果を捏造し、自らもそれを下地として作戦を進める。その結果は明らかである。無駄に戦力を使い、軍は崩壊していった。

 

最後に出てきたのが、爆弾を抱えて敵艦に突っ込むという神風特攻作戦、外道の戦いである。この神風特攻を決めたのは、敵弾の届かないところで、決して死を賭して戦うことのない軍令部の将校である。そして捏造された神風特攻の戦果で国民を鼓舞し、自らもあと何機の特攻を加えれば敵を壊滅できると叫びつつ、集団ヒステリー状態に陥っていった。

 

今思えば余りにも馬鹿げた時代であったが、今の時代といえども、このような状況は起こりうる。昭和の戦争を歴史の教訓として読むには、重い内容の本である。

 

 

 

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