羽田のハブ空港化 (2009.10.16)

 

前原国交相が、成田と羽田の国際線・国内線分離という航空政策を撤回し、羽田をハブ空港化すると言及したことが大きな波紋を呼んだ。とりわけ、成田空港を抱える千葉県の森田知事は怒りの声を上げたようである。

 

しかし、この成田空港問題、今更ながら、と思うのは私ばかりではあるまい。日本の航空行政は間違いの繰り返しであり、その付けが回ってきただけの話である。成田空港の計画ができたのは今から40年以上も前の話である。当初計画は滑走路2本に、横風用滑走路を1本加えるというものであったが、当時ですらその程度の規模では、各国が進める大型空港からすぐに取り残されることはわかっていた。しかも、その立地選定も、成田ならば国有地部分が多く、周りの百姓どもは追っ払えばよいという安易な考えであった。それが故に、空港建設があの成田闘争にまで発展したことは、皆様ご存じのとおりである。結局、40年以上たった今の姿は滑走路が1本半という、お粗末なものである。

 

すべてが役人の発想で進むから、利用者の利益など全く考慮されていない。成田開港後も、かなりの間、空港へのアクセスで大変な時代が続いた。当初、成田新幹線の建設計画があったが、当時は国鉄の経営が大問題となっていた時代で、計画が進まない。国鉄に対する政治的、役人的配慮から、空港に乗り入れる京成電鉄の駅は現在のターミナル地下ではなく、わざわざ空港から離れたところに作られた。おかげで、利用者は空港の手前で一度電車を降りなければならず、バスに乗り換えてターミナルに向かうという時代がかなり続いた。本当に腹が立ったのを今でも覚えている。

 

この程度の計画性しかないから、今や、東アジアで見ても成田空港の地位が沈下するのは当然である。シンガポールのチャンギ空港や中国の香港空港に行かれた方はおわかりでしょうが、まさに規模の違いを実感する。すでに、成田空港は東アジアの一地方国際空港でしかない。これからのアジアの経済発展を見通せば、中国が地域をリードすることは明らかで、日本の経済的な地位は当然のように沈下する。成田空港の設備では、今後ますます拡大する国際競争に勝てるはずもない。

 

一方、成田空港が抱える問題は対外的なものばかりではない。帰国便で、たまたま居合わせた方が話しかけて来たことがある。「私、成田に着いた後、電車に乗り換えて羽田まで行き、国内線で九州に戻らねばならないのですよ」。利用者の立場など一切考慮しない日本の航空行政ゆえに、国民は置いてきぼりである。

 

今や、地方の方々が海外に出る際には、韓国の仁川空港を使うことが多いという。当然の成り行きである。韓国の方が、市場というものをよく理解していたというだけの話である。成田空港にせよ、関西空港にせよ、利用者の利便性など考えていないのだから、別につまらないナショナリズムなど考えずに、素直に仁川をハブとして使えばよい。

 

さて、前原国交相の「国内線・国際線分離」政策をなくすという考えは当然であるし、政策変更があまりにも遅すぎたと考えている。羽田をハブ空港化することは大賛成である。しかし、韓国の仁川空港やこれから伸びて来る中国の上海や北京空港などに勝てるかと言えば、悲観的である。そもそも、東京は無秩序に肥大化しすぎており、来年、羽田に4本目の滑走度が完成しても、あれだけの数の国内線と新たに乗り入れる国際線を本当に裁くことができるのだろうか。東京への路線開設を待っている海外の航空会社はまだ多い。それらの新規参入者の利用申請が殺到した場合、本当に羽田で対応できるのであろうか。新聞記事によれば、新滑走路が完成し、発着枠が拡大しても、羽田の容量は2010年代半ばにはパンクするという。

 

もはや日本に国際的なハブ空港を作ろうと言っても不可能であろう。むしろ、今後ますます加速する中国、韓国、そして日本を軸とした東アジアの経済発展と、その中での人とモノの輸送という視点で、地域を一体化した航空輸送体系を考えた方が日本にとってもプラスのはずである。すでに東京の国際的な地位はずり落ち始めているし、日本が一番、東京が一番、という発想は通用しなくなってきている。

 

 

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