『母の待つ里』 浅田次郎 20221月 新潮社

 

 

昭和チックな人情ものを書かせれば浅田次郎の右に出る者はいないと、私は思っている。歯切れの良さと、最後の落ちは、彼の作品の真骨頂だろう。

 

この物語、今の世を上手く捉えている。クリジットカード会社が社会的地位のある人を対象に提供するステータスカード、ゴールド、いやいやプラチナをも凌ぐブラックカードを手にしたお客に対してだけに提供する特別なサービス「ユナイテッド・ホームタウン・サービス」がその舞台である。サービスの依頼は本人からの電話でしか受け付けない。受付窓口となるコンシェルジェの女性、吉野知子は人間ではなく、どうもAIらしい。

 

そんなお客さま達は年齢で言えば60を越えんとする、いわば社会人として最後のステージに立つ人達である。傍目から見れば、それなりの地位と人生の成功を手にしたように見えるが、人生を振り返ればそれぞれに悔いや心残りがあり、他人が考えているほど平穏なものではない。

 

そんな彼らに提供するホームタウン・サービスとは、岩手の限界集落にある故郷と年老いたお袋という仮想現実を一泊二日でお届けするものである。そんな仮想現実ではあるが、それぞれが心の中に秘めてきた後悔の念が沸々と湧き上がることで、いつの間にか仮想の世界と現実の世界が錯綜して行く。そして最後には、ほろ苦くも、何やら心に響く結末が待っている。

 

大人向きのおとぎ話的筋立ては、浅田次郎が受賞を手にした「地下鉄に乗って」や「鉄道員」にも共通するものがある。そんなお話しに感動できるのは、私を含めた昭和生まれのロートルだけなのかも知れない。

 

 

 

 

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