Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis, J. D. Vance. June 2016. Harper

 

 

発刊は8年も前の古い本であるが、著者のヴァンスが今年の大統領選挙にトランプの伴走者、つまり副大統領候補として現在選挙戦の真っ最中にあることで、日本でもその名が知られるようになった。同名の訳本『フィルビリー・エレジー』が2年ほど前(20224月)に光文社から出版されている。

 

内容は彼の生い立ち、半生記を綴ったものである。辞書で引いて見ればわかるように、フィルビリーとは「田舎者」とか「田舎っぺ」、つまり題名は「田舎者の哀歌」である。

 

いわゆるラストベルト、産業が衰退したオハイオやケンタッキーで貧しい暮らしに喘ぐ白人家庭が彼の出自であり、貧困な白人の生活はほとんどの日本人には思いもよらない。彼の母親は男を次から次へと変え、麻薬中毒であった。そんな家庭環境下で、母親と暮らすことがトラウマとなり、彼は祖母と祖父の家で育てられた。といっても、祖父母の家庭も貧しく、アウトローとも言える生活を過ごし、まさにヒルビリーを地で行くものであった。

 

廻りの同世代は学校では落ちこぼれ、そして高校を出ても、大学に進むような人は殆どいない。高校を出るか出ないかで、家庭を飛び出した女の子がボーイフレンドと一緒になったものの、子供が出来るやいなや男は逃げ出し、結局、親と同様に貧困に喘ぐという姿は珍しくもない。貧困が貧困を生むという繰り返しが、貧しい白人層の姿である。

 

彼はたまたま祖母が子供時代のヴァンスに勉強することが今の境遇から抜け出す道であると口を酸っぱくして教えたことで、大学への進学を目指した。といっても、祖母の家庭は貧しい。大学進むための資金を貯めるために海兵隊に入る。除隊後、貯めたお金と奨学金、そしてアルバイトをしながらオハイオ大学を卒業し、そしてイェール大学のロースクールを終了する。

 

米国はある意味日本以上の学歴社会である。アイビーリークのロースクールの終了証書を手に入れれば、有名処の弁護士事務所から引く手あまたのお誘いがかかる。ヴァンスはイェール大学ロースクール卒の肩書きを手にしたことで、それなりの富を手にした。まさにアメリカンドリームの成就である。(本には書かれていないが、その後、ベンチャーキャピタリスト、政治家への道を歩んだ。)

 

今年の大統領選挙戦でわかるように、ラストベルトの貧しい白人の票はトランプの基盤である。よく言われるように高卒の白人にはトランプ(共和党)支持が多く、大卒の白人にはハリス(民主党)支持が多い。白人貧困層には、トランプならば昔の国の姿(衰退した過去の産業)を復活してくれるという願望がある(トランプが言うMAGA/に期待する)。

 

この本の中には、オバマが回教徒であり、米国に流れ込んできた移民であることを貧しい白人層が信じているといった話しが埋め込まれている(それが嘘であるか真であるかといった事は別にして)。多分、ヴァンスには民主党に対する嫌悪感があるのだろう。

 

彼の考え方と行動や発言には、トランプに類似するものがある。それは、ヴァンスが銀のスプーンをくわえて生まれてきたトランプとは真逆な家庭環境育で育ったにも拘わらず、貧困から苦学して成功を手にしたという、彼の強烈な克己心から来るものだろう。

 

選挙戦での発言でもわかるように、ヴァンスには陽動的に民衆の心を引こうとする言動が顕著に見られる。一番有名な話しは、トランプがハリスとのテレビ討論会で持ち出した「オハイオ州のスプリングフィールドで違法移民が住民の犬やネコを捕まえて食べた」という嘘話の出所は彼である。

 

この本を読めば、彼の凄まじいばかりの向上心(野心と言ってもよい)が理解できる。

 

 

 

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