『敗者としての東京—巨大都市の隠れた地層を読む』 吉見俊哉 20232月 筑摩選書

 

 

社会学の視点から書かれているので文調は少々硬いが、内容は面白い。江戸から現在の東京に至るまでの歴史を、社会的に言えば負けた者、社会から葬り去られたた者、あるいは隅に追いやられてしまった者の目線で語る。

 

徳川家康による江戸開びゃく、太平の世を経た後の徳川幕府の崩壊、明治政府による国の近代化と大日本帝国の確立、そして敗戦による帝国の崩壊という幾つかの節目で東京と時代の変遷を見る。

 

戊辰戦争で敗者となった旧幕臣、時代の混乱の中でしたたかに生きたヤクザや愚連隊、社会の繁栄から取り残されたように暮らす貧困者、産業新興の中で搾取された女工などは、東京の大きな変遷の中で全く周辺に追いやられた人達であった。

 

社会学と気負って読まなくとも、明治から昭和に至る女工哀史や労働争議は歴史の事実として知って損はない。とりわけ米軍占領下の戦後から1960年代までは、高度成長とは裏腹に社会の矛盾と混乱も続いた。それでも人々は、必死に、そしてしたたかに生きていった。

 

著者はれっきとした東大の先生であるが、そのファミリーヒストリーは読み手を引きつける。彼の従兄弟伯父は戦後の新宿の闇市を仕切った安藤組組長の安藤昇という。占領軍のPXからの横流しで、一気に闇の世界で地歩を築いた人物である。

 

敗戦の混乱期に、身を売らねば生きていけない女達もいた。渋谷は今でこそ若者の街、そしてビジネス街に変わったが、円山町界隈はかつて花街であった。私は名古屋で育ったので東京の変遷は知らないが、名古屋も一等地は進駐軍に占拠され、名古屋駅西側にはちょっと近寄りがたい世界があった。そんな景色は子供心に覚えがある。

 

東京あるいは日本の発展と繁栄の歴史を美しく語ることはできるが、それは一面からの講釈に過ぎない。この本、一読をお勧めする。

 

 

 

 

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