政府負債の危機
(2011/2/14)
国の借金がここまで膨れあがっても、未だに抜本的な解決に手が付けられないのが、今の日本の政治である。
この膨大な財政赤字で国は破綻するのか、いやいやまだ大丈夫、などという話はさておいて、今の日本の財政事情が異常な事態にあることだけは、誰の目にも明らかである。下の二つのグラフは、昨年10月にIMFが発表した世界経済見通しの結果である。G5間の比較でみれば一目瞭然。GDPの二倍、歳入の七倍に及ぶ借金を抱える日本の状況は異常である。
そんなことを言うと、日本の債務はアメリカと違って、その95%が国内で保有されているから大丈夫、あるいは18世紀のはじめイギリスは国家負債がGDPの250%まで達したが、100年かけてこれを返済したと、すぐに横槍が入ってきそうだが、それで済む話ではなかろう。
政府の借金は最終的に納税者に廻ってくる。GDPが500兆円の国民が1,000兆円近い借金を背負って将来が展望できますかと、詰め寄られれば、おのずと答えは見えてくる。1960年代の高度経済成長期ならいざ知らず、今の日本は、4人に1人が65歳以上の高齢者という国である。これだけの高齢者人口を抱え、この政府負債額を目にすれば、次の世代の人たちにとっては、もはや「政治のバカヤロー」でしかない。高齢化世代は年金を貰って逃げ切るつもりでしょうが、今の20代、30代の人たちの身になれば、年金支給は遅らされる、税金は上がるでは、とてもではないが日本の社会に希望は持てない。
それでも増税がいやというならば、国の借金が棒引きになるくらいのハイパーインフレーションを期待するしかない。それこそ日本経済の崩壊である。
1月27日のスタンダード・アンド・プアーズによる日本国債の格下げ発表、続く2月7日の日本外国特派員協会の講演で白川日銀総裁が発言した——歴史が示すよう に、どの国も永久に財政赤字を続けることはできない——を引用するまでもなく、残された時間がそれほどあるとはとても思えない。さすがに菅首相も、2月9日の党首討論会で、「消費税率引き上げを含む税制の抜本改革について、2011年度末までに 法案の提出を目指す」と発言した。その中身がどうなるのか分からないが、最終的には欧州並みに消費税を20%くらいには上げないと、財政はとても再建できない。さもなければ、社会保障、年金、公共投資をばっさり切って、政府は縮小均衡するしかない。経済はますます停滞することになろう。
欧州復興銀行の総裁を務めたジャック・アタリが面白いことを言っている。過剰な債務の解決策は限られる。「増税」、「歳出削減」、「経済成長」、「低金利」、「インフレ」、「戦争」、「外資導入」、「デフォルト」である。日本が採ることのできる戦略は、このうち増税と外資の導入くらいしかない。ところが、この二つは、今の日本の政治では、ほとんど話が前に進まない。
税金を上げると言っても、次の選挙が心配な今の民主党では、党内の意見を纏めることは並大抵の話ではない。一方、外資導入を進めるにしても、「農業団体の反対で自由貿易協定は遅々として進まない」、「諸外国に比べ法人税は高い」、「日本の国内市場に成長は期待できない」、「国民は内向きとなり制度改革などとてもできない」では、外国企業が日本に投資する理由はどこにも見あたらない。
マスコミは菅首相の指導力不足を煽るが、彼一人に責任を押しつけるのは酷である。私は、菅さんは税制改革と自由貿易協定の必要性を確信している政治家だと思っている。ただし、彼が首相の座を引き継いだ時期が余りにも悪かった。鳩山前首相の失策、そして小沢問題を抱える中で、彼を取り巻く政治環境は極めて悪化している。どのみち、次の選挙で民主党が相当の痛手を受けるのは分かりきった話なので、菅さんは思い切って勝負に出ればよい。かつての小泉元首相がやった郵政改革のように。