『グーグル秘録-完全なる破壊』 ケン・オーレッタ著 土方奈美訳 2010年5月 文藝春秋
IT革新は、常にオタクたちに支えられてきたと言ってもよかろう。
マイクロソフトのビル・ゲイツ、アップルのスティーブ・ウォズニアック、そして極めつけがグーグルを立ち上げたサーゲイ・ブリンとラリー・ページである。ちなみに、ウォズニアックと共にアップルを立ち上げたスティーブ・ジョブズは、オタクというよりは金儲けの才に秀でた起業家であろう。
ブリンとページも、ビル・ゲイツやウォズニアックと同様、大学生時代に新しい技術のブレークスルーを信じて事業を興し、世間の常識を根底からひっくり返した。グーグルは、検索という言葉を「ググる」に置き換えたが、そこで起きたものは、単なる技術に優れた検索エンジンの提供ではなかった。既存のビジネス・モデルを崩壊させる新たな世界の創造であった。
ワンクリックの世界はマスメディアを媒体とする広告業界のパラダイムを壊し、ウェブ・ニュースの提供は紙だけにしがみついていた新聞業界を淘汰に追い込み、そしてインターネットによる画像の提供は放送業界と映画業界を時代遅れの産業に追い込もうとしている。
二人のオタク達が持つビジネス観は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのものとは全く異なる。技術至上主義であり、人間の感性を重視することはない。無駄に見えるものは遠慮なく切り捨てる。それは諸刃の剣でもある。
検索技術で見せた圧倒的な技術の優位性はビジネスとして大成功したが、半面、理詰めの合理性だけで進めた既存著作物のスキャンと書籍検索は、作家や出版業界との間で大きな軋轢を生み、著作権裁判に至った。
グーグルの描く新しいパラダイムが、これからも成功し続けるかどうかは分からない。
唯一言えることは、この本のサブタイトルにあるように既存のビジネス・モデルを破壊しつつあるという事実である。とりわけ、新聞、テレビ、音楽、出版といった古いメディア、そしてウインドウズでOSの市場を席巻し、オフィス・アプリケーションでほぼ独占的に利益を上げられる仕組みを作ったマイクロソフトにとっては、事業戦略の抜本的見直しを迫られるものとなりつつある。
最後に、この本が教えるものは、決してグーグルを知ることが目的ではないことを言っておこう。
クラウド・コンピューティングの時代への突入という加速度的なビジネス環境の変化の中で、自らの事業戦略をどのように変えていくのか、組織管理と運営がどのようにあるべきかを考える上で、いろいろなヒントを与えてくれるものである。グーグル自体、すでに大企業病に罹り始めているという指摘があるように、ひょっとすると盛者必衰の理が当てはまるようになるのかもしれない。
この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2011年3月14日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>