石油元売りへのガソリン補助金 (2021/11/18)
つい二日ほど前、萩生田光一経済産業相は、ガソリン価格が高騰しているので、価格が一定水準を超えた場合、 石油元売り各社に補助金を出す方針と発表した。
コロナ禍での経済対策としてこれを打ち出したようであるが、これ、本当に妥当な施策なのだろうか。私にはそうは思えない。折角予算があるので使っときましょう、という話なのか。
原油価格の上昇でガソリン価格が上がっているのは事実である。今日の原油価格の終値は、ブレントが$79.41ドル/bbl、WTIが$76.55ドル/bblであった。それでは、2000年以降の原油価格の推移を振り返って見てみよう(図参照)。今ここでパニックになるような価格の高騰でないことは、お分かり頂けるだろう。
そもそも原油価格は、市場の需給を反映して上がったり、下がったりする。昨年はコロナ禍で需給が緩み、価格は$41.84ドル/bblと、産油国に取ってみれば泣きたいような下落であった。今年に入って消費国で感染者数が下がり、経済が回復し始めたことで需要が上向き、価格が上がり始めた。それでも過去20年間の価格の幅で言えば、概ね中間値に近い。2010から2014年にかけては、2020年の実質価格でいえば$100ドル/bblを越えていた。それが原油市場のというものである
それがなぜ今、ガソリンの値上がりに対して、石油元売りに補助金を出さなければならない状況と言えるのか、全く合理的な説明がない。ガソリンの値上がりを押さえるために補助金を出すのであれば、なぜ電気の値上がりを押さえるために電力会社に補助金を出さないのか、なぜ都市ガスの値上がりを押さえるためにガス会社に補助金を出さないのか1/、という疑問は当たり前に出て来る。
エネルギーばかりではない。食料油、小麦、そしてコーヒーといった原料を輸入に頼る食料品も値上がりしている。ならば、ガソリンなどよりも、消費者にとってもっと切実な食料品の値上がりを抑える方が重要だろう、なぜ食品加工会社に補助金を出さないのだ、という話になる。
今程度のガソリンの値上がりが、庶民の生活を苦境に陥れているとはとても思えない。そもそも、今の若い人達はどんどん車離れをしているのが現状である。万人にとっての切迫した問題とは、とても思えない。
この揮発油税、元を正せば曰く因縁だらけである。道路財源確保のため、本則の24.3円/ℓに上乗せした高い税率(暫定税率)が長期に亘って続いた。旧民主党は政権を取る直前、この暫定税率を無くせと自民党に噛みついていたが、どっこい政権を取った途端、暫定税率を廃止し、同額分の特定税率を設けることで、53.8円/ℓを維持した2/。要は、暫定税率の上乗せ分が道路財源から一般財源に移っただけの話である。
本題に戻ろう。それほどガソリン価格を抑えたいのであれば、53.8円/ℓという揮発油税を下げれば良い。そもそも、同じ自動車燃料でありながら、軽油にかかる軽油引取税は32.1円/ℓと、ガソリンより21.7円/ℓ安い。さらに電気自動車は、この手の税金を払っていない。
税制の矛盾を放置したまま、元売りに補助金を出してガソリン価格を下げましょうでは、お話にならない。
1/ 電気や都市ガスの燃料であるLNG価格は原油価格に連動して上がり下がりする。
2/ 2010年4月