高速道路1000円乗り放題 (2009/5/10)
黄金週間(GW)が終わり、世の中の生活は元に戻った。連休明けの新聞には、さっそくGWの輸送実績が出ていた。
言うまでもなく、土日休日の1000円乗り放題のおかげで、高速道路の交通量は大幅に増加した。本四連絡橋の西瀬戸道が八割増加で最も混雑したという。他にも北陸道の一部で七割、関越道の猪苗磐梯で四割ほど輸送量が増えたとの発表があった。
これだけ安くすれば利用者が増えるのは当たり前であるが、さて帳尻の方はいかが相成ったのか。車両数で比較するのでなく、料金収入で比べると、ちっと違った見方ができるのかもしれない。最も通行量が増えたという本四架橋西瀬戸道の料金を見てみると、端から端まで普通車で走ると4700円というのが基本となる料金である。これを1000円に値下げしたのだから、一台あたり3700円の収入減と相成る。さて、連休中にこの道路を何台の車が通ったのだろうか。
連休中(4/25〜5月6日)の西瀬戸道の交通量は15万7809台で、73.3%増と報告されている。ということは、通常であれば9万851台だったということになる。その時の料金収入は、全てが普通車であったと仮定すれば、車両数掛ける4700円で、総額4億2700万円となる。一方、今回の連休では、料金は1000円に値下げなので、73.3%交通量は増えたものの総収入は1億5780万円にとどまる。つまり輸送量は増えたが、2億6920万円の収入減であった。
さて、通行量が増えたことによる経済波及効果はどうであったか。個人個人のレベルで、道路の料金が1000円に下がったので、そこで浮いた分を他で散在してやろうと思ったかどうかはわからないが、その他の分野での消費行動が高速料金に大きく左右されたとは思えないので、正味で経済の底上げに寄与するのは、増加交通量の73.3%、すなわち6万6958台の人が出先でいくら金を落としてくれたのか、にかかっている。
道路会社の収入減となった2億6920万円をこの6万6958台で割ると、一台あたり4020円である。つまり、増加した車両一台当たりが4020円以上の金を落としてくれれば、とりあえず勘定は合うという話になる。この程度の金は落としてくれたようには思えるが、GWのような状況が今後も続いてくれるかどうかはわからない。今回は1000乗り放題となって初めての大型連休なので、かなりの数の車が出たが、報道を見ている限り、高速道路の渋滞にげっそりしている人も結構多い。安いとは言え、車で出かけたことに少々後悔しているというところであろうか。こんなわけで、二匹目のドジョウがいるとは限らない。
これとは別に、輸送の流れに歪みが出たことも事実である。移動手段が高速道路にシフトしたため、連休中のJR6社の利用者数は7%減となった。フェリー業界は、顧客が高速道路に逃げたため、事業運営に深刻な影響を受けたようである。経済波及効果を見るには、この部分の経済収縮を差っ引かねばならない。
ということで、経済波及効果がどうであったかについては、もっと精緻な分析が必要であり、ここで結論は出ないが、私の受けた印象は、今回の状況はなんとなく「高速料金1000円乗り放題のバブル」に踊っただけか、といったところである。
そもそも、麻生首相は「1000円乗り放題は景気対策の目玉」と言いたかったようである。確かに大騒ぎというインパクトはあったが、景気対策に本当に貢献したどうかは、どうも怪しい。確実にほくそ笑んだのは、高速道路を作りたい道路族であったのだろう。なかなか利用率の上がらなかったETCが、今回の騒ぎで一気に普及したことだけは事実である。