G5体制の崩壊と日本経済の凋落 (2009/10/27)

 

1025日の朝日新聞のウェッブにおもしろい話が出ていた。ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン所長に対するインタビュー記事である。主題は、「米ドルの基軸通貨体制はもはや米国の国益に沿わない」という米国にとっての課題であるが、世界経済における日本の立場についてもコメントをしている。

 

これからの世界経済の問題解決と協調を進める上で、米中のG2体制か、それに欧州を加えたG3体制で議論するべきであり、日本はもはやその中には入り得ないというものである。その理由は、日本の人口減や過去20年の経済成長の弱さを考えれば、G3ほど強い経済ではない点にある(図参照)。喩え日本が入るとしても、G3にプラスした形のG4か、さらにインドを加えたG5になるという。

 

これまで、日本は米国に次ぐ世界第二位の経済大国であると言っていたが、おそらく今年中、来年には確実に中国にその場を譲ることになる。加えて中国は、ここしばらくは年率8%を超える成長を続けることも間違いない。2010年代には、経済規模で日本をさらに引き離していく。一方、まだサブプライムローンに端を発した経済の傷跡が癒えない欧州は、個別の国を見ればそれなりに問題を抱えるが、欧州連合という形で巨大な統一市場を形成している。この点で経済圏の一角をなす。

 

これは、もはや日本の宿命である。作家の堺屋太一さんが言うように、日本では、規格型大量生産の工業化社会の時代は既に過ぎ去っている。経済がグローバル化する中で、工業製品の生産はますます水平分業化して行く。家電業界や自動車業界が東南アジアや中国にその製造拠点を移転することは、当然の成り行きである。日本人の気質は「もの作り」であるという言葉は、確かに耳あたりは良いが、規格品の生産段階で付加価値を付けるには、日本人の所得は高くなりすぎている。日本と中国の労働者の給与水準を見れば、日本が勝てないことは今更言うまでもない。今後も日本が世界経済の中でそれなりの地位を占めようと考えるならば、製造業も上流の研究開発と商品開発、ビジネスモデルの創造で付加価値を見いだすしかない。一方、この分野で、これまでのように多くの雇用を確保することも無理である。

 

日本経済が工業品の生産段階で付加価値を得られないのであれば、サービス分野の付加価値を上げねばならないし、その市場を拡大しなければならない。放送や通信分野、医療分野、そして教育分野を見ても分かるように、政府の規制で全てががんじがらめになっている。金融分野を見ても、事情はそれほど変わらない。経済バブルが崩壊した1990年代初めに、遅ればせながら日本の金融業界も英国にならって日本版ビッグバンを実施したが、実態は国内の業界にとっての垣根を取り払ったにすぎない。当初は、東京市場に上場する外国企業は100社を超えたが、今や20社にも届かない。海外の企業にとって、東京はもはやローカル市場でしかなく、上場するならばニューヨークかシンガポールである。煩雑な規制が多いゆえである。

 

今回の世界不況で国内でも失業問題、とりわけ非正規雇用者問題が大きく取り上げられた結果、小泉内閣時代の構造改革が問題を引き起こしたという声が結構出ている。民主党政権下での郵政民営化の見直しもその一つであろう。しかし、日本経済の落ち込みと、社会の閉塞感はむしろ世界の動きに遅れたからでしかない。小泉内閣時代の改革が引き金となったわけではない。小泉内閣は、構造改革のほんの序の口に手を付けたにすぎない。今ここで、日本が昔戻りをしようというのであれば、日本経済はさらに凋落の一歩をたどることになる。

 

日本が世界経済の一角としての地位を守ろうというのであれば、さらなる改革を進めない限り、新しい付加価値や新しい産業は育成できない。構造改革とは、別に、弱肉強食のジャングルの掟に従うというものではない。透明なルールを決めて、情報をつねに開示し、市場の公正さを保つことである。今の日本の規制とは、官僚の恣意的な決めごとと役所を含めた既得権益者を守るための仕組みでしかない。本来の規制のあり方は、市場の不正を監視するものであり、企業の不正な行為を取り締まることである。

 

グローバル化とは「地球化」であり、単なる国際化とは全く異なる。国の規制をできる限り低くし、ルールを公平化することで、地球規模で経済が最適化していくことである。この動きは誰にも止められないし、それに逆らったところで世界の進歩から取り残されるだけでしかない。

 

日本経済がさらなる凋落を続けるのか、今ここで社会の制度を見直して、新たな時代を切り開くことができるのか、ここ数年でかなりの答えが出るのだろう。民主党政権の成立により、少なくとも、これまでの政治家、関連業界、そして官僚のもたれ合いに基づいた既得権益を保護するための政治構造は崩壊しつつある。しかし、新しい時代に合った経済構造の構築という点からは、今の政治体制で、はたして改革を通して新しい産業を興し、経済を活性化できるのか、まだまだ疑問が残る。

 

 

 

 

説明: 説明: SY01265_古い出来事」目次に戻る。

 

 

説明: 説明: door「ホームページ」に戻る。