海外直接投資受入国の順位 (2021/12/17)
国際通貨基金(IMF)は海外直接投資の受入国と投資国の統計を公表している1/。海外からの投資を受け入れた国は、言うまでもなく経済を発展させる上で大きな恩恵を受ける。毛沢東時代の貧しかった中国が世界第二の経済大国に発展したのは、鄧小平が大胆な経済開放を行い、海外からの直接投資を促進した結果である。
また、かつては欧州の貧しい小国であったアイルランドが1人あたりGDPで見れば世界第三位の豊かさを実現するに至ったのも、法人税を下げ、海外からの直接投資を優遇したからである。この点で、第一位のルクセンブルグも同じである/2。であるがゆえに、ECの中で両国は租税回避地とも言われている。
では2020年の順位はどうであったかと言えば、世界第一位の海外直接投資の受入国は米国である。金額で言えば4兆6260億ドル、1ドル=110円で換算すれば508兆円、すなわち日本のGDPに匹敵する資金が流れ込んだ。米国に投資した国はどこだろう。それは日本、カナダ、英国、オランダ、ドイツの順である。日本が米国に直接投資した額は6480億ドル(71兆3000億円)に上る。
巨大な市場であり、かつ世界的なサプライチェーンの要となっている中国は第4位で、受け入れた直接投資額は3兆2140億ドル(354兆円)ある。日本は中国に対する三番目の投資国で1930億ドル(21兆2000億円)を投じた。
では日本が受け入れた直接投資はどうであろう。僅か2320億ドル(25兆5000億円)に過ぎない。米国は日本への投資国として第一位の地位にあるが、その金額は僅か627億ドル(6兆9000億円)でしかない。つまり日本は投資先として全く魅力がない。こうして見ると、日本経済の立ち位置がよく分かる。
日本人の給与がこの30年間上がっていない。生活が苦しいのだから、儲かっている大企業から税金を取れ、金持ちから金を取れという声があちこちから聞こえる。しかし、金のあるところから金をふんだくって、ばら撒いたところで、国そのものが豊かになる訳ではない。
そんな状況になれば、国際展開している日本企業は、やがて海外に出て行ってしまう。別に、丸ごと海外移転しなくとも、海外に本社、日本は国内だけを見る地域会社にとどめる。海外で稼いだ利益を日本に移転する理由はない。個人とても同じである。既にシンガポールに拠点を持って資金運用する日本の投資会社があることはご存じのとおりである。
冒頭で述べたように、アイルランドやルクセンブルグが何故これほど豊かになったのか、それは法人税を下げ、直接投資を促進したからである。アイルランドはそうすることで、IT企業や製薬会社の誘致に成功し、雇用の機会を増やした。
日本がこれからも経済発展したいのならば、日の丸企業、あるいは日本人による事業運営などという島国根性丸出しの発想はもうやめようではないか。日本人の知恵だけで技術革新できる分野など、たかが知れている。一番重要なことは、世界中の優良企業を魅了し、日本への投資機会を増やし、雇用を創造することである。そうしなければ、給与も上がらないし、新たな産業も創出できない。
岸田政権は新しい資本主義を実現し、「成長と分配の好循環」を創り出すと言っているが、具体的な成長戦略が提示されていない。私には、パイの拡大が無いまま、内輪での富の再分配にしかならないように見える。失われた30年に続く次の10年が、皆で手を取り合って貧しくなっていく国にならならないことを祈るばかりである。
1/ IMF, Coordinated Direct Investment Survey
2/
2020年でアイルランドの1人あたりGDPは8万5206ドル、ルクセンブルグは11万6921ドル、ちなみに日本は世界第24位で4万89ドルである。(IMF統計)