『ファクトフルネス』 ハンス・ロスリング(著),オーラ・ロスリング(著),アンナ・ロスリング・ロンランド(訳),上杉 周作(訳),関 美和(訳) 20191月 日経BP

 

 

原文は日本語題名と同じ「Factfulness」。著者はスウェーデン人なので、英語ではあるが簡単な単語を使った分かりやすい文章になっている。殆ど辞書なしで読むことが出来る。ちなみに訳本はアマゾンで1980円するが,Kindleの英語版ならば僅か653円で済む。

 

アマゾンの評価を見ていると、常識的な内容という意見を含めてそれほど評価しない人もいるが、軽く読むには結構面白いし、示唆も多い。

 

人は結構過去の常識に囚われている。貴方の常識、今となってはそれは事実誤認、ということは結構ある。

 

この本に、そんなくだりがあるわけではないが、日本の技術は中国より優れている、なんたってもの作りはニッポンといった思い込みもその一つだろう。回教徒は産児制限しないので子供の数が多いというのも、偏見を含めた思い込みである。

 

識字率、就学率、出生率、平均寿命といった指標は人種や宗教の違いで差異があるわけではなく、所得水準で概ね同じになるのが「事実」である。つまり回教徒は子沢山というのは偏見にすぎない。回教徒であっても、所得が上がり、教育を受けるようになると、欧米や日本と同じように子供の数は少なくなる。

 

感情だけに煽られた行動も同じである。

 

環境問題や社会問題で、活動家が声高に世論をリードしようとする動きはあちらこちらで見られる。彼らの主張は間違っていないし、共感もある。しかし、ウッカリすると問題の緊急性や他の問題との優先度、さらには具体的にどう対策するのか、利害関係者の調整をどう取るのか、といった緻密な議論が示されていない。

 

地球温暖化問題などはその典型だろう。活動家は「何をグズグズしているのだ、今や行動を取るべき時だ」と叫び、今の体制を厳しく批判する。しかし、では誰が、何について、どう対応するのかという緻密な議論は捨象されている。

 

人間、本能的な感情に走ると本質を見誤ることは多い。

 

過去の常識に基づいた事実誤認、マスコミが提供するセンセーショナルな話題に対する過剰反応と追従、よく知らない世界に対する根拠のない不安と偏見などは、当たり前に存在する。

 

何かを判断する場合、なんとなくという常識や風潮に流されるのは危険この上ない。好奇心を持って真実を調べてみれば、信頼性のあるデータは幾らでもある。真実と思い込んでいたことが事実ではないという話は幾らでもある。

 

 

 

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