民主党の対外問題への対応力 (2010.11.10)
尖閣諸島問題の初期対応のまずさから、外交交渉が経済問題にまで飛び火したことで、日中関係はこじれにこじれ、菅内閣への風当たりが非常に強い。この日中外交問題の後を追うように、ロシアのメドベージェフ大統領がAPEC横浜会議の出席を前に国後島を訪問し、日本の北方領土四島返還の要求を牽制した。
立て続けに起きたこれら二つの出来事により、菅内閣の外交能力に大きな疑問符がついてしまった。
しかし、この外交問題への対応能力の低さは、ある意味、民主党そのものに内在していた大きなリスクでもある。これは、麻生内閣が倒れ、自民党から政権を奪取した鳩山前首相自身にきわめて外交能力が欠如していたことにまで遡る。
鳩山首相にとって、普天間基地問題は、外交政策の視点ではなく、沖縄の基地問題という内政問題への対応でしかなかった。当時、連立政権を組んでいた民社党に引っ張られた結果、と言われても致し方ない部分が明らかに存在する。結局、鳩山前首相は、それまで何とか妥協点を見つけようと努力してきた辺野古キャンプシュワブ沿岸部への移転案を見事にご破算とし、安全保障面でアメリカとの間の関係を大きく損なった。そして、小泉元首相以降、三代続いた短命内閣の記録をさらに伸ばした。
中国が尖閣諸島問題で強硬な態度を取ったのも、日米安全保障体制で日米両国関係の軋みを見透かしたことは明らかである。それに続いて、民主党の対中国外交政策と混乱の不手際を見透かしたロシアは、旧ソ連時代を含めてこれまで実施することのなかった大統領自らの北方領土訪問、という揺さぶりをかけた。
11月2日の読売新聞の記事によれば、中国中央テレビは、メドベージェフ大統領が国後島訪問を特集した中で、「民主党は政権を失う可能性がある」、「菅政権が外交の素人であることがさらに証明された」という評論が加えられたという。まさに、民主党の外交能力はまったく足下を見透かされている。
外交問題だけが対外問題ではない。経済問題とりわけ貿易に関わる自由化問題への対応も完全に時代に取り残されてしまっている。これは、民主党の問題と言うよりは、長きにわたって続いた自民党政権が残した負の遺産である。中国、韓国、ASEAN諸国が自由貿易協定を積極的に締結していく中で、日本だけが置いてきぼりになっている。これも、国の経済政策、産業政策より、国内の農業団体への対応という内政問題を重視してきた結果である。
私の目には、日本の自由貿易協定への取り組みは、すでに遅きに失していると映る。日本経済を支えてきた産業界は、グローバル化という大きなうねりの中で、地域別の需要、地域別の生産、そして地域間の生産流通網の合理化を進めている。もはや、日本は輸出で富を稼ぐ体制ではないし、グローバル企業にとって日本での生産は日本市場という一要因での判断でしかなくなってきている。
その昔、産業の空洞化などという言葉が使われたが、現在は産業そのものが地球規模で事業戦略を立てている。つまり、産業の空洞化あるいは輸出産業などと言う言葉そのものが、時代遅れになってしまった。
早い話、今、日本が自由貿易協定の締結に向けて一生懸命になったところで、海外に生産拠点を移した企業が戻ってくるわけでもない。中国製のパナソニック、タイ製の日産車は、当該国において、すでにその恩恵を受けている。
菅首相は、APEC横浜会議に向けて、環太平洋経済連携協定(TPP)の党内調整を進めているが、彼が言う「平成の開国」とは裏腹に、農業団体をバックとするTPP反対派とのせめぎ合いに喘いでいる。すでに、政府と与党の調整過程で「交渉参加を目指す」との文案が排除されている。民主党議員にとっては、二次産業のシェアが下がり続ける中で、国内の雇用をどう確保するかよりも、農業団体の既得権益をいかに守るか、いかに補助金をふんだくってくるのかの方が、重要な関心事のようである。
正直なところ、今の政権には国際問題への対応力はほとんどなく、内政問題と次の選挙で票を失うことへの恐れしか眼中にないように見える。これは、私だけであろうか。