意見広告の誤魔化し 2010.1.3

 

昨年暮れの新聞に、この一面広告が出ていた。その内容はといえば、シリーズ「日本の温暖化対策を考える」と題して、鳩山首相が表明した「2010年までに25%の温暖化ガス削減」に対する、反対意見である。

 

これは、いわゆるエネルギー産業、エネルギー多消費型産業、そして自動車関連産業の各業界がスポンサーとなって、意見広告を打ったモノであるが、彼らは直接意見を述べず、日本消費生活アドバーザー・コンサルタント協会最高顧問と称する女性を担ぎ出し、彼女に「温暖化対策で、年間何十万円の負担に、家計は耐えられない」と言わせている。また、広告記事の中にグラフを入れ込み、「日本はすでに世界のトップレベルの低炭素経済を実現しており、削減の余地は少ない」と訴えている。

 

家計の支出云々の話はさておいて、あたかも日本が世界最高の低炭素社会と言うために、統計をごまかして作ったグラフには恐れ入った。そのグラフでは、2005年のGDP当たりのCO2排出量を各国と比較しているが、グラフをよく見ると、何かおかしい。まず、CO2排出量は2005年データであるが、GDPをドル換算するための為替レートが2000年基準である。んんん...、2005年のCO2排出量を比較するのに、なぜ為替レートだけその5年も前の2000年の数字を使うのか?どうも胡散臭い。各国との比較も、欧州はEU27カ国で一括りである。おいおい、EUは地域統合体ではあるが、連邦でもなければ、国でもない。それに、ソ連の崩壊で旧東欧諸国が一気にEUに加盟したので、各国の経済水準は千差万別。加盟国すべてをひっくるめ、あたかも一カ国のように取り扱って経済比較するのは無茶苦茶ではないか。

 

というわけで、ここで正しいCO2排出量比較を行ってみよう。

 

まずは、彼らが使った為替レートの誤魔化しを修正しよう。2005年データで議論するならば、当然、為替も2005年を基準とするべきである。米ドルに対する為替レート(年平均値)を見ると、2000年は107.77円、2005年は110.22円であった。2005年ではなく、2000年の為替レートを使って円建てのGDPをドル換算することにより、ドルベースでは約2.2%GDPを膨らますことができる。つまり、分母を2.2%かさ上げすることにより、GDP当たりのCO2排出量を逆に2.2%小さくすることができるのである。これが彼らの第一の誤魔化しである。

 

加えて、GDPの比較であれば、市場の為替レートで比較するよりも、購買力平価(PPP)で比較する方がよりバイアスが小さくなる。もちろん、市場の為替レートはあくまでも市場が決めた数値であるので、決して間違いではない。しかし、様々な経済要素や政策的な為替介入により、その時々のレートはかなり変化するので、所得水準や付加価値生産の比較であればPPPの方が望ましい。

 

次に欧州諸国をEU27カ国で括った誤魔化しである。EU加盟国といっても、2005年の一人当たりGDPは、ドイツの37898ドルに対して、ルーマニアは4567ドルにすぎない。分母にGDPをとって経済比較をするならば、当然、日本と同じG5加盟国である、英国、ドイツ、フランスとの比較があってしかるべきである。

 

以上のような「正しい」統計処理によって求めた「正しい」CO2排出量の比較は以下のグラフとなる。

 

GDPあたりCO2排出量の比較(2005年)

(出所)IEA (2009), CO2 Emission from Fuel Consumption; IMF International Financial Statistics; IMF World Economic Outlook database より作成。

 

一目瞭然。確かに、日本は低炭素経済社会といってよいが、世界一ではない。先進国との比較では、GDP当たりのCO2排出量は英国やフランスよりも高く、ドイツとほぼ同じ水準にすぎない。おそらく、日本人の多くは、日本が世界でダントツの低炭素経済を達成していると信じているようであるが、これは正しくない。欧州の先進国並であるというのが正しい理解である。

 

マスメディアで目を引くCO2がらみの記事には、ここで問題として取り上げた意見広告のように、業界にとって都合のよい統計処理をした誤魔化しが結構多い。しかも、その業界の意見広告を「日本消費生活何とやら」のおばさんが代弁するので、あたかも消費者の味方のような印象を与える。

 

ゆめゆめだまされる事なかれ。

 

 

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