2050年 世界人口大減少(Empty Planet: The Shock of Global Population Decline)』ダリル・ブリッカー(著) ジョン・イビットソン(著) 倉田幸信(解説) 河合雅司(訳) 20202月 文藝春秋社

 

 

原作のEmpty Planet20192月の発行。和訳はKindle1800円であるが、原本は僅か510円。難しい英語は使っていないし、240ページのボリュームなので、英語版にチャレンジしてみてはどうだろうか。

 

これは世界の人口がこれから減少傾向に入るというお話しである。一般の人にとって、地球ではこれから人口爆発が起きるというのが常識的な理解だろうが、それに真っ向からぶつかる逆説である。しかし、日本の現状を見れば、それは簡単に理解できる。日本の合計特殊出生率は1.4であり、人口は2050年には1億人を割り込み、2060年には8674万人まで減少すると、政府は予測する。

 

このような状況は、先進国では押し並べて当たり前になっている。イタリアの出生率は1.4、英国が1.7、ドイツが1.6、出生率が高いフランスでも1.9、ロシアが1.6と、人口は減少していく。ちなみに人国を維持するためには、出生率2.1を維持しなければならない。

 

出生率が下がる原因は簡単である。経済発展とともに人々は地方から都市に集まり、女性の教育水準は上がり、そして彼女たちの社会的地位が向上したからである。人々の生活が豊かになる一方、子供の教育には手間と金がかかる。若い夫婦は沢山の子供を産むことを躊躇するようになる。一言で言えば、少子化とは、経済の発展に伴う都市への集中、そして女性の地位向上の結果である。

 

これは、日本や欧米先進国だけの状況ではない。宗教や文化、そして地域を越えてその傾向は進んでいく。かつては貧しく子沢山で、しかも産児制限に対する厳しい宗教戒律があるバングラデシュでも今や出生率は2.0である。

 

日本の将来は悲観的になってしまうが、韓国に至っては出生率が1.0を切っている。中国も同様であり、統計局のデータからは出生率は1.2、あるいは1.05といった報告がある。少なくとも向こう十年くらいの間は、その程度の水準で推移するものと見られる。一人っ子政策は廃止したが、もはや手遅れの状況である。これからの中国は、日本以上に少子高齢化の問題を抱えることになる。

 

そんな暗い未来となる人口減少の解決方法は、唯一移民の受入であると、著者は主張する。歴史的に移民により国を繁栄させてきたのは米国である。様々な能力のある人間が米国に流れ込むことで、世界一の経済と学術、そして新しい芸術を生み出した。ノーベル賞受賞者や起業家の多くを移民が占めることを見れば、一目瞭然の事実である。米国の出生率も欧州並の1.7であるが、それを補うのが移民である。今後も移民を受け入れ、社会の多様性を維持し続ける限り、米国は将来においても発展し続ける。

 

移民の第一世代は、仕方なく下働きの世界に身を置かざるを得ない者が多い。しかし、彼らにはそこから這い上がろうとするバイタリティがある。子供には教育を付け、社会で成功するチャンスを掴もうとする。そのハングリー精神が社会を活性化させる。

 

逆に、排他主義、純血主義に固執する国は人口減とともに滅んでいく。何やら日本の将来を暗示する。

 

 

 

 

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