電気自動車と自動車市場の変動 (2024/5/18)
トヨタ自動車は2023年度に営業利益で5兆3529億円、最終利益で4兆9449億円という日本の製造業では過去最高となる利益を叩き出した。円安で為替利益が出たこともあるが、日本と北米市場で燃費に優れるハイブリッド車の販売が好調であったことが好決算の理由である。
これとは対照的に、これまで好調に売上げを伸ばしてきた電気自動車(EV1/)の雄テスラは、今年第1四半期(1〜3月)の売上高は前年同期比で9%減、最終利益は55%減の11億2900万ドル(1750億円2/)となった。この業績不振は世界的なEVの需要落ち込みの結果である。
テスラの不調は、中国市場では地元メーカーとの価格競争に晒され、一方、米国では高価格でも買うというユーザが一巡したことに加え、米連邦準備制度理事会(FRB3/)の利上げで高額なEVが避けられるようになり、価格を下げざるを得なかったことが原因である。この状況を受けて、イーロンマスクは新モデルの前倒し販売、そして人員削減とコスト削減を発表した。
このようにトヨタとテスラの決算は明暗を分けた。長期的には内燃機関から電気へという自動車の基幹技術の大転換は避けられないが、現在、EVの市場環境は急激に変動し、かつ複雑になりつつある。
中国では様々な企業がEVに参入した。その結果、昨年下期以降、利益を度外視した乱売競争が起き、急速な価格競争が進んだ。現在利益を出している企業は数えるほどでしかない4/。加えて遠くない将来には、国内は過剰生産という状況すら見えてくる。すでに量と価格で勝負する中国のEV産業は、1980年代に日米で起きた自動車輸出紛争と同様な貿易摩擦を引き起こしつつある
5月14日、バイデン政権は中国のEVにかかる関税を現状の25%から100%に上げることを決定した5/。名目は、トランプが大統領時代に叫んだと同じような国内産業の保護である。これにより、中国製のEVは実質的に米国市場から閉め出される。しかし中国EVメーカが、かつての日本の自動車産業にならい、米国内に生産工場を建てるかと言えば、そうはならない。米国政府は中国製のコネクテッドカー(つながる車)が国家安全保障上のリスクになると危惧し、販売そのものを規制しようとしている6/。
欧州においても、米国ほど強硬ではないものの、欧州委員会は政府の補助金を受ける中国企業がEVを不当な安値で輸出していることを疑い、既に調査を始めている。
環境問題を追い風に、欧米そして日本ではEVの導入促進が政策的に進められてきたが、技術的な問題(電池の寿命やエネルギー密度)、経済的な問題(コストと価格の高さ)ばかりでなく、各国それぞれの政治的な思惑が加わり、市場は激しく変動している。
1/ Electric Vehicle
2/ $1 = ¥155で換算。
3/ Federal Reserve Board
4/ 2023年通期で黒字を計上したのは、最大手の比亜迪(BYD)と理想汽車のみ。【東洋経済ONLINE 2024/5/17】
5/ この高率関税はEVだけでなく、太陽光電池と半導体は25%が50%、注射器と注射針は0%が50%、リチウムイオン電池は7.5%が25%へと税率が上がる。
6/ レモンド米商務長官は5月15日、中国から輸入されるコネクテッドカーに関する規制案を今秋に公表する予定だと明らかにした。【REUTERS 2024/5/16】