世界銀行の中国への忖度と報告書のデータ操作 (2021/9/21)
世銀は9月16日付で、報告書「ビジネス環境の現状」の2018年版と2020年版で不正な操作*1があったので、今後、この報告書の発行を取りやめると発表した。
不正の内容は、本来であれば中国のビジネス環境ランキングは前年から7位下がって85位になるはずが、前年と同じ順位になるようデータ処理に手を加えたというものである。不正の内容を調査したウィルマーヘイル弁護士事務所が作成した報告書は世銀のウェブからダウンロード*2できるので、読んでみると面白い。
この不正は、当時世銀の最高責任者(CEO)であり、現在は国際通貨基金(IMF)の専務理事を務めるクリスタリナ・ゲオルギエバが中国の意向(圧力)を忖度して、指示したものと見られる。当時の総裁であったジム・ヨン・キムと総裁室の側近もこれに関与していたが、調査では総裁が不正を直接指示したという証拠は見つからなかった(総裁の側近が指示したことは認められている)。
この忖度に背景には、世銀内部における中国の存在の大きさがある。この問題が起きた当時、世銀は参加国の出資比率の見直しを行っていた。総裁やゲオルギエバは、この報告書で中国の順位が下がれば、出資額の増加を求めているなかで中国がつむじを曲げることを恐れていた。
それゆえに、総裁室は報告書の担当部門に中国の順位を操作するように圧力をかけた。中国のデータに香港、台湾、マカオのデータを足したらどうか、国のデータとして北京と上海の二都市のデータだけ使ったらどうかと、いろいろ策を練ったようである(が、旨く行かなかった)。結局、担保付き取引に関する法律の評価をいじって、中国の点数を調整した。担当部局のシニアディレクターはゲオルギエバに送ったEメールの中で、これを「技術的な解決」と称した。
また報告書では、中国同様にサウジアラビア、アラブ首長国連合、アゼルバイジャンについても、不正操作が行われたことが記述されている。
国連の組織と違って、世銀とIMFの内部規律は非常にしっかりしており、少なくとも私はこのようなスキャンダルを耳にしたことはなかった。この点で、世銀にとって前代未聞の汚点であるが、事が発覚した後の対応はさすがである。外部の法律事務所に調査を委託し、その報告書を公表した。
醜聞ではあるが、説明責任を果たすためのこのような世銀の対応は、日本の行政も見習うべきであろう(いやいやながら情報開示した資料の肝心な部分が黒塗りでは、疑惑はますます拡大するばかりである)。
*1/ 世銀特有のirregularityという用語を使っている。