22世紀の民主主義——選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』 成田悠輔 20227 SB新書

 

 

一見すると、とんでもない暴論ではあるが、それなりにうなずける所が多い。

 

ただし、出だしの論点の根拠は無茶苦茶。例えば、民主主義指数とGDP1/成長率の相関を示して、民主主義国家の方が非民主主義国家より成長率が低いと言い放つ。確かに、中国の政治は民主主義と対局にある一方、GDP成長率は日本や欧米をぶっちぎっている。

 

しかし、これはデータ分析になっていない。民主主義が成熟した国は先進国であり、1人あたりのGDPは高い。一方、中国の1人あたりGDPはまだ1万ドルを超えた程度である。中国が1人あたりGDPで4万ドルを超えても今の成長率を続けられるとは、経済の分かる人なら誰も思わないだろう。

 

ちなみに日本だって、1955年から1973年までの高度経済成長期には二桁成長を経験している。その当時日本は未だ貧しく、経済の伸びしろが大きかったからだ。もし経済成長に対する民主主義の影響を見るならば、同じ経済水準(1人あたりGDPGNI2/)の国同士を比べねばならない。

 

近年、途上国の経済成長が高まったのはグローバル化により、主に生産拠点が賃金の低い途上国に移ったのがその理由。その恩恵を最も受けた国が対外開放を通して海外からの直接投資と技術移転を積極的に進めた中国である。著者は、1990年以前は途上国より先進国の方が経済成長率が高かったと言うが、それはグローバル化以前の時代であり、先進国から途上国への直接投資がそれほど進んでいなかったからに過ぎない。

 

ま、こんな議論はさて置いて、彼の主張で面白い部分は一杯ある。

 

彼の言いたいことは、今の日本はシルバー世代が選挙のマジョリティを占め、若者達はもはや選挙に希望を持てなくなくなり、そもそも選挙に行かなくなっている(選挙に行った所で何も変わらないという意識)。この前時代的な選挙制度に基づく民主主義をどう変えるか、凡人の発想を超える暴論を展開する。

 

選挙権に世代間で重みを付けたら(余命短いシルバー世代のポイントは低くする)?AIを使って、民意を拾い、政策の選択肢と政策判断をさせてみたら?ソシアルメディア(SNS3/)を使った国民の直接参加なんかあるんじゃないの?政治家なんか役に立たないから、もういらない!

 

世の中を見れば、実はそんな暴論に見える事例は見つけられる。政治家なんて発言はコロコロ変わるし、言っていることに責任を取るわけではない。選挙で票を稼ぐのはタレント議員である。今話題の統一教会問題で、あの二階元幹事長はこのように言い放った——「応援してやろう」と言ってくれたら「よろしくお願いします」と言うのは「毎度ありがとうございます」と商売人がいうのと同じ。つまり宗教さんでも、ヤクザさんでも票になればウエルカム。

 

であれば、役立たずの政治家なんてアイドルかネコでもいいんじゃないの。私を含めた世の凡人達が心の内に秘める政治や選挙に対する鬱積した不満を痛く代弁してくれる。政治家は皆の人気者として可愛いネコに代わり、選挙は民意を汲み取るAI4/を使ったアルゴリズムに替わる(なるほど、なるほど、一理ある)。

 

ただし最後に、お恐れながら天才的能力を持つ研究者成田(著者)さんに老婆心ながら一言。彼は新聞もテレビも見ないと言っているが、質の高い新聞やジャーナルはお読みになった方が良い。ニューヨーク・タイムス、ワシントン・ポスト、フィナンシャル・タイムス、ザ・エコノミストなど、幾らでもある。

 

 

 

1/     Gross Domestic Product

2/     Gross National Income

3/     Social Network Service

4/     Artificial Intelligence

 

 

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