『大学改革の迷走』 佐藤郁也 201911月 筑摩新書

 

 

私が大学を卒業した当時、国立大学は一期校と二期校という括りであった。大学制度改革が具体的な形となって表れたのは共通一次試験が導入された1979年と言ってよかろう。

 

この共通一次試験そもそもの狙いには、大学間の序列化と入試地獄を解消するという立て前があった。私の記憶が正しければ、その当時、入試改革を通して東大を頂点とする大学の序列を「富士山」を頂点とする序列に喩えた上で、これを優れた大学を複数で構成する「八ヶ岳型」の構造に変えるという説明があった。

 

しかしこの共通一次試験の導入により、その狙いとは裏腹に、偏差値という物差しによってますます大学と学部の序列化が進んだ。

 

私が大学受験した当時も、一期校となった旧制大学(端的には旧帝大)が予算面で優遇されていたのは事実であるが、少なくとも旧制大学より入試の難易度が高く、優秀な学生が集まる二期校が幾つかあった。

 

ところが今や、文科省が重点校とするのは旧帝大に固定化される一方で、地方の国立大学は満足な研究予算が無く、大学運営に汲々としている。

 

改革の端緒となった共通一次試験は1990年に大学センター試験に姿を変え、そしてさらに2020年度には大学入学共通テストに変わった。

 

入試制度改革にとどまらず、予算配分の選択と集中も進められた。2002年に始まった21世紀COEプログラム、その後のグローバルCOEプログラム、そして2014年のスーパーグローバル大学創成支援事業がその代表的な施策である。言うまでもなく、そこでの予算は旧帝大を柱とする旧制大学に優先的に割り振られた。その後も、国立大学交付金の3類型、そして指定国立大学の指定(2019年末で旧制大学7校)が行われた。

 

しかし、入試や予算と、政府は過去40年にわたっていろいろ制度をいじってきたが、現実を見る限りその成果は出ていない。

 

政府は改革の中でしばしば日本の大学を世界のトップ校に並ぶ地位に持っていくと言っているが、THETimes Higher Education)の世界大学ランキング2020を例に取れば、100位以内に入っているのは36位の東大と65位の京大にとどまり、これら2校は順位で中国の清華大学や北京大学、シンガポール国立大学、香港大学に抜かれている。それが現実の姿である。

 

日々の新聞やニュースに目を通していれば、多くの人にはそんな日本の大学改革の現状が何となく分かってくる。

 

著者は大学改革が迷走を続けた元凶について、「『開化先生』的メンタリティ」、「改革の自己目的化」、「集団無責任体制」、「ドラマ仕立ての改革論議」、「リサーチリテラシーの欠如」という5つの病根をあげる。そこには、大学人として大学改革の中で苦労してきた著者の恨みつらみを交えたなかなか鋭い分析と指摘がある。

 

 

 

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