『変異ウイルスとの闘い——コロナ治療薬とワクチン』 黒木俊男 20205月 中央公論新社

 

 

パンデミックが始まって、いつの間にか2年半が過ぎてしまった。その一方で、第七波の兆しが出てきている。著者が言うように、これが始まりの終わりなのか、終わりの始まりなのか、よく分からない。

 

新型コロナは日本にいろいろなことを教えてくれた。ワクチンや治療薬の開発は言うに及ばず、政府の混乱と判断の遅れは、日本の情けない姿を露呈した。

 

この本は、ウイルス変異のメカニズムに始まり、ワクチン開発、日本の医療逼迫の状況と問題点、そして今後の展望へと話が進んでいく。

 

コロナ禍で、日本の問題点がいろいろと浮き彫りとなった。欧米に比べて、ワクチン開発と接種が圧倒的に遅れたことは、その筆頭だろう。その原因は日本の縦割り行政と、役人が自らを無謬と呼ぶ独善的な閉鎖構造にある。著者の厚労省に対する非難は手厳しい。

 

欧米のワクチン開発は光速、ワープスピードで進んだ。今日本で使われているファイザービオンテックとモデルナのmRNAワクチン開発は、ドイツと米国のベンチャーが手がけた。このワクチン開発に道筋を付けた人々の多くが移民である。トルコからドイツへの移民二世、ギリシャからの移民、東ドイツから米国に逃げてきた移民、ベイルート生まれのアルメニア人と、枚挙にいとまがない。

 

彼ら移民が持つ高いモーティベーション、多様性ゆえのエネルギーが、この光速開発を可能にした。ワクチン開発に限った話ではない。学術、産業、文化といった様々な面で、日本が何故世界の先端を切り開くことが出来なくなったのか、その理由を暗示する。

 

欧米先進国と比較すれば、この二年半に亘って、いかに日本の対応がまずいものであったか、今更言うまでもなかろう。医療の逼迫も政府の判断遅れ、硬直的な対応にその原因があった。何とか乗り越えてこられたのは、唯々、現場の頑張りがあったお陰である。

 

恐らくこの新型コロナという疫病が完全になくなることはないだろうし、変異し続けるコロナウイルスは人間の都合を慮ってくれるわけではない。

 

日本の行政がこれまでの失策を糧に、もっと戦略的かつ機動的な体制に変わることを望むばかりである。

 

 

 

 

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