ウクライナの停戦 (2024/11/29)

 

 

ロシアがウクライナの南部で攻勢を強める一方、ウクライナがこれ以上戦争を継続しても全土を奪還することはもはや難しい。

 

現実を見てみよう。その一。戦争に2年目に入ってウクライナが目論んだロシアが占領したクリミアと東部4州を完全に奪還するための反転攻撃は失敗に終わった。

 

その二。ウクライナ政府は武器弾薬の供給を欧米に依存せざるを得ない。しかし、来年以降、欧米からこれまでのような軍事支援を受けることはもはや望めない。米国では、トランプ次期大統領と上下院を抑えた共和党はウクライナへの支援には否定的である。多額の軍事支援はバイデン現政権が裁量権を持つ現在の予算執行で終わりになる。そしてEUの最大国ドイツは来年のウクライナ支援予算を半減することを既に決定した1/

 

そしてその三。人的な損失を全く顧みないロシア軍の攻勢である。ロシアは一日に1500名の兵を損失しつつも新たな兵を投入し、ウクライナ軍をじわじわと排除し続ける。ロシア軍にとって兵卒は単なるコスト、消耗品にすぎない。一方、ウクライナ軍はマンパワーの不足に陥っている。長きにわたって前線に置かれた兵士は疲労困憊するが、彼らを入れ換えるための補充兵が確保出来ていない。徴集兵の年齢は高く、40代、さらには50代の者も混じり、志気は低下している2/

 

このように、ウクライナは戦争継続が難しくなりつつある中で、停戦の落とし所を探らざるを得ない状況に来ている。同様に、ロシアも戦争継続の限界が近づきつつある。すでにインフレ率は8%を超え、中央銀行の政策金利は21%にまで上昇した。国民の生活を犠牲にして、今後も国家財政の四割を軍事に費やし続けることは難しくなっている。軍事産業への資金流入が止まれば、経済不況と超インフレに陥りかねない。

 

停戦を決める一番の鍵はトランプ新政権がどのような内容の提案をするのかに掛かる。今取り沙汰されている案は、朝鮮戦争の休戦協定に倣って現状の戦線に中立地帯を敷くことと、ウクライナのNATOへの加盟を凍結するものである。

 

ウクライナは占領した領土を諦めるとしても、停戦後の安全保障が担保されなければ合意できない。単に現状をもって停戦するだけならば、ロシアは再び兵力を立て直し、侵略を繰り返すだろう。それを押しとどめるだけの保証が不可欠である

 

ウクライナにとってNATO加盟はその保証になる。しかし、もしNATOへの加盟が出来ないならば、ロシアが再び侵略戦争を仕掛けた場合、米国がウクライナに軍事支援をするといった保証は不可欠である(ただし、トランプ政権がそれをどう考えるかはわからない)。ウクライナ国民は後ろ盾のない一方的な停戦には同意しない。なにせ、ウクライナの安全保障を約した1994年のブダペスト協定3/はロシアによって見事に破られたのだから。

 

いずれせよ、停戦に向けた交渉作りの環境は整い始めたように見える。問題は停戦条件である。それは簡単な交渉ではなく、かなりの時間を要することになるだろう。

 

 

 

 

1/     2024年の80億ユーロの支援は2025年に約40億ユーロに半減する。(BBC News 18 July 2024

2/     The Economist 24 November 2024

3/     1128日付けの日本経済新聞(ウェブ版)は、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を引用して米国が停戦交渉の一環として、ウクライナに今後20年間はNATO加盟を見合わせるよう求める可能性があると報じた。

4/     1994125日にハンガリーの首都ブダペストで開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)会議において、アメリカ、イギリスおよびロシアの核保有3ヶ国が署名した覚書。内容は、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの三カ国が核不拡散条約に加盟したことに関連して、協定署名国(アメリカ、イギリス、そしてロシア)がこれら三カ国の安全を保障するというもの。協定に基づいて、ソ連時代にウクライナが所有していた核兵器は全てロシアに移管された。

5/     米ギャラップが8月と10月にウクライナ国民を対象にした世論調査によると、52%ができるだけ早期に停戦交渉すべきだと回答した。(日本経済新聞ウェブ版 2024/11/28

 

 

 

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