カルロス・ゴーン、国外逃亡 (2020/1/5)
年末晦日にカルロス・ゴーンが逃亡したという報道が出た。
日本は正月休みに入っているので、事の詳細は断片的でよく分かず、海外の引用記事か憶測の方が先行している。ニュースで弁護士へのインタビューがあったが、彼は「(国外逃亡は)想定外」と答え、何やら他人事でしかない。
逃亡先のレバノン政府と旅券を交付したフランス政府は彼を日本に送還するつもりはないと言っており、身柄の確保は絶望的である(どの国でも自国民の保護を優先するので、これは当然のこと)。つまり、この件で日本がゴーンを刑事告訴する道は閉ざされたに等しい。
この逃亡事件はセンセーショナルではあるが、ゴーンが日産から350億円を越える金を不正にかすめ取ったことでいえば、これは日産の経営ガバナンスの問題とも見える。
金融商品取引法違反と特別背任容疑での訴追はあくまでも司法上の問題であり、日産にとっては、ルノー・日産連合を今後どうするかの方がもっと重要であろう(日産の経営陣にしてみればゴーンが刑務所に入れば取りあえず溜飲は下がろうが、ルノー・日産の将来には両社で30万人の雇用が掛かっている)。
ともに連合を組めば事業規模で世界のトップグループに入るが、もし両社が別れるならば、それぞれは中途半端な規模でしかない。加えてどちらも業績は今ひとつ、利益率は高くない。
ルノーの営業利益率は2018年12月末期が5.2%、日産は2019年3月末期で僅か2.7%にすぎない。さらに日産の2019年第2四半期の決算は前年同期比で70.4%減であった。日本市場にかつての日産の面影は無く、稼ぎ頭の米国市場は安売り(インセンティブ販売)を続けた結果、ガタガタになった。
ゴーンを追放したことで、日産の経営陣にはナショナリズムが強くなっている。
その一方、ルノーの株を握るフランス政府は、これまで何とかして日産をルノーの完全子会社にしたいと考えていたが、今後も強気一辺倒で行けるのか、雲行きが怪しくなった。
政府の要らぬ介入はビジネスに対する疎外要因でしかない。昨年夏、フィアットクライスラー(FCA)がルノーとの対当合併話を持ち込んだが、フランス政府がこれに介入したことでFCAはこれを破談にし、その半年後にプジョー・シトロエン(PSA)と組んでしまった。
自動車業界ではCASE(Connected, Autonomous, Shared, and Electric)という一大変革が進むなか、各社技術開発に多額の資金を投入しなければならない。
日産とルノーともに単独でこの大きなうねりを乗り切ることは容易ではない。両社の関係は「割れ鍋に綴じ蓋」と見えなくもないが、かといって今更離婚することも難しかろう。
ゴーンは来週早々(1月8日と伝えられる)、日本の司法制度と自らが置かれた状況が如何に人権を無視したものであったか、マスコミに発表すると言っている。
欧米のマスコミはこれまで日本の司法制度をかなり懐疑的な目で見てきたので(ウォール・ストリート・ジャーナルはゴーンに同情的な記事を書いている)、日本がゴーンの主張に対してどのように反論していくのか、彼らにとって大きな関心事でもある。