『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』 麻布競馬場 20229 集英社

 

 

これはソシアルメディアに掲載してきた短編小説を一冊の本として纏めた作品で、そもそもは作者が自らの半生に基づいた人生観を素材にした作品と言う。

 

いずれの話も、今の若者社会をちょっと皮肉的、冷笑的に捉えている。東京で育った者と地方で育った者との間にある無意識の優越感と劣等感、あるいは育った家庭環境から来る格差意識、そんな僅かな違いが夫々に優越感や敗北感を植え付ける。

 

私が若かった頃には無かった「親ガチャ」という言葉がそれを物語る。生まれた環境で己の立ち位置を規定し、それを将来にまで当てはめ、一生を決め込んでしまう。少々夢のない話であるが、今や全てを他人との比較で自らの価値を推し量ることが当たり前の社会になってしまったのかもしれない。世の中を学歴、就職、そして結婚に至るまで偏差値による数値化や順位付けしたがるのはその最たるものだろう。

 

そんな今の世を反映したお話しに一貫する流れは、僅かな優越感を持っていたはずの私(俺)が、ある時気が付けばそれが一気に敗北感に変わるという結末である。

 

確かに受ける落ちではあろうが、今の若者の多くが共感を持ってこれを読んでいるとなると、私には日本社会の閉鎖性を表したブラックユーモアにも見える。

 

 

 

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