トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ? 』 トレバー・ノア(著),齋藤慎子(訳) 20185月 英治出版

 

 

原作のタイトルは「Born a crime」。翻訳本の価格が1980円であるのに対して、Kindle版は僅か530円とお買い得である。スラングや話し言葉が多く出て来るが、英語の文章そのものは簡単な言い回しを使っている。日常会話で使う慣用句を勉強するには役に立つ。しかし仕事では、shitfuckといった類いの単語はくれぐれも使わないように。

 

内容は、南アフリカの有名なコメディアン、トレバー・ノアの自叙伝である。かの悪名高きアパルトヘイト、つまり人種差別の下、彼は貧困と差別の中で育ったが、ここではそんな生い立ちをあっけらかんと明るく語る。

 

彼は黒人の母親と白人の父親の間に生まれた混血、有色人(colored)である。彼を育てたのは肝っ玉母さんのような母親で、信心深いキリスト教徒である。複雑な事情があり、白人の父親は法的に父親とは認められていないし、同居もしていない。

 

アパルトヘイト時代の黒人や有色人が如何に差別され、貧しく厳しい社会生活環境の下に置かれていたかを垣間見ることが出来る。また、アパルトヘイトが撤廃された後、黒人のマンデラ大統領が誕生したからと言って、理想的な社会が出来たわけでもなかった。むしろ、黒人の部族間で凄惨なリンチと殺し合いが起きた。

 

南ア社会に白人、黒人、有色人という明確な区分と差別、貧困、そして暴力が存在する中で、意志強固かつ実行力のある「肝っ玉母さん」のおかげで、彼は逞しく育って行った。彼は子供の頃に警察のご厄介になることもあったが、その裏にある貧困と差別という社会環境を知ればやるせない思いにつまされる。

 

米国では、つい最近、ミネアポリスで黒人が警察官によって絞め殺されたことが切っ掛けで、暴動が全米に広がった。日本人は黒人差別という構図だけでこれを理解しようとするが、そんな単純な話ではない。社会構造的な差別ゆえ、教育を受ける機会から排除され、貧困の連鎖が続く中で、人々の不満と怒りが爆発した。そんな混乱に乗じて、単なる略奪に加わる者もいる。

 

人種差別が貧困を生み、それが構造的な社会矛盾に満ちた世界を作る。この本は、そんなアパルトヘイトという時代を逞しく生きて来た人の姿を教えてくれる。

 

 

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