『アニマルスピリット-人間の心理がマクロ経済を動かす』 ジョージ A. アカロフ著 ロバート J. シラー著 山形浩生訳20095月 東洋経済新報社

 

 

著者であるジョージ・アカロフとロバート・シラーの名からこの本を読んでみようと思わなくても、訳者の山形浩生の名から読んでみようと思う人は少なからずいるだろう。山形浩生独特の話口調で中身をかみ砕いた翻訳は、読んでいて結構楽しい。

 

さて、昨年秋に起きた世界的な金融危機と経済不況、何となく景気は底を脱した様には見えるが、それほど楽観的にもなれない。巷にあふれる新刊書、あるいは雑誌や新聞のコラムでは、経済学者あるいは経済評論家を名乗る様々な方々が、これまた様々な解説をして下さる。

 

それはそれで良い。しかし、経済がすべて理詰めで動いているわけではない。「ここぞ一発勝負」という、余り合理的とも思えない「アニマルスピリット」が経済を過熱させ、あるいは落ち込ませることが、世の中、普通に起きているというお話しである。著者が言うように、人は「安心」、「公平さ」、「腐敗」、「貨幣錯覚」、「物語」を動機として経済行動に突っ走る。

 

言うまでもなく昨年発生した金融危機の引き金は、アメリカのサブプライム・ローンの破綻であった。本来与信が得られない人々を対象に住宅融資を行い、それを切り刻んだ証券を発行し、売り逃げすることで、一発儲けてやろうと考えたノンバンクの頭の良い人たちだけではなく、支払い能力も考えず今金を借りて住宅を買えば、さらに値上がりして銭儲け出来ると考えた人々を動かしたのが、まさに「アニマルスピリット」である。

 

別にアメリカだけの話ではない。日本にだって、こんな話はゴロゴロ転がっている。1980年代の後半に日本が経験したバブル経済と株価の高騰、そして暴落。つい最近の話で言えば、ごくごく普通の家庭の奥様方が外貨取引、FXトレードで一攫千金を夢見たのもアニマルスピリットのなせるわざである。

 

この本は、そこそこマクロ経済論理を知っている人、アカデミックな経済理論は分からなくとも日々の仕事を通して「世の中の景気」は分かっていると言う人、さらには本当に普通の「一般人」、いずれの方々にもお勧めできる経済書である。休日、ソファーにひっくり返って、ちょっとだけ教養を高めようという向きにはもってこいである。

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の20091124日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

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