2012年大晦日 (2012/12/31)
今年も今日でお仕舞。この一年を振り返れば、いろいろな出来事があった。個人的には、一番大きな変化は政権交代だったと思っている。民主党から自民党へと、与野党が入れ替わったという現象だけをみれば、過去3年間の民主党政治の結果を見れば、無べなるかなという話になってしまうが、これから何が変わるのだろうかという視点でみると、相当大きな問題を含んでいるような気がする。
安倍政権がこれまでと大きな違いを訴えている論点はいくつかある。経済の立て直しを掲げ、その中で年率2%のインフレターゲットを設定し、公共投資へ回帰し、さらには日銀の独立性にも踏み込もうという意気込みを示したことが一つ、もう一つは、原発政策の見直しを明言し、民主党政権が掲げた2030年代での原発の全廃を抜本的に見直したことが目立つ。今朝の新聞には、安倍首相が原発の新規建設に意欲を示したという記事が出ていた。
安倍政権が掲げたこれらの約束をどのように具体化していくかは、今後のお手並みを見るしかないが、疑問というよりは、明確に言えば「疑い」は相当ある。
インフレターゲットは、クルーグマン教授が昔から提言してきた。その狙いは、彼が著書で書いた「全米子守協会」の話にあるように、インフレ懸念をあおることで、金はあるが将来に対する不安から出し惜しみしていた人たちに、お金を使わせることにある。確かに、1990年のバブル崩壊の後のしばらくの間であれば、納得できそうな話であるが、あれから22年経った現在の日本に当てはまるかといえば、「はいそうですね」とは言い難い。
現在の日本は相当な速度で、貧富の差が拡大している。特に、若年層に金銭的な余裕があるかといえば、一般論で言えばそうではなかろう。経済をインフレに導いても、物価は上がるが給与は増えない、それどころか雇用すら厳しくなる結果に終わる可能性の方が高い。金詰りの中のインフレ、つまりスタグフレーションである。
企業にとっても同じである。インフレ懸念をあおれば、借金をして国内の設備投資に回すかといえば、そうはならない。そもそも、日本の経済の落ち込みの背景には、経済のグローバル化がある。大規模な設備投資が期待できるのは製造業であるが、もはや日本でものを作って、消費地に輸出する時代ではない。消費地で生産し、そこで雇用を作り、現地に利益を還元するという経済構造に変わってしまっている。アルビン・トフラーの「第三の波」ではないが、日本にとっては、輸出で稼ぐ工業化社会は前時代のモデルとなってしまった。ものの輸出で富を稼ぐには、日本の給与水準は高くなりすぎている。中国、せめて韓国並みの賃金水準に落とさなければ競争力はない。ものを作ることへの拘りはわからないでもないが、単なる「モノづくり」では付加価値は稼げない。
今の日本の所得水準でさらに経済を発展させるには、脱工業化社会、「知価型」の産業構造への脱皮しかありえない。アップルの業績を見れば、それがよくわかる。同社の2012年第3四半期の売り上げは約360億ドル(1ドル85円で換算すれば3兆600億円)、純利益は82.2億ドル(同、6990億円)である。これは1年間の業績ではない、7から9月までのわずか3ヵ月間の業績である。製造はすべて外注化し、商品概念とビジネスモデルの構築、設計、そしてマーケティングだけに特化した企業の姿である。かつては、一見業種が類似しているとみられたソニーの現在の姿と比べれば、まさに雲泥の差である。
今の日本の産業の立て直しに求められるのは、国内製造部門への設備投資ではない。抜本的な産業構造の再構築であり、脱工業化した新しい産業の創造である。円安になれば、日本製造業が復興するなどという考えは、もはや幻想に過ぎない。
安倍さんの二つ目のお話。原子力への再回帰である。しかし、現実問題として、新規の立地は不可能であろう。福島、新潟、そして浜岡原発を抱える静岡県が新たな原発の立地を受け入れるとは思えない。関電にとって重要な福井県においても、新規原発の建設がおいそれと受け入れられるとは思えない。唯一、受け入れに前向きに対応を示しているのは、青森県くらいであろう。
財界の一部には、電気料金を下げるために原発を支持する意見は出ているが、橋下さんの言葉ではないが、「それならば関東や関西で原発を立地しますか」という話になる。