140ドル原油 (2008/6/30

 

先週、原油価格がついにバレル140ドルを超えた。原燃料の高騰により、企業の業績見通しもかなり悲観的になっている。これが1907年代の石油危機当時であったら、まさにパニックとなっていたであろう。

 

確かに、現在の石油価格の高騰はかつてと同様異常である。ただし、70年代の石油危機との決定的な違いは、市場で石油不足が起きているわけではない点である。当時は、OPECが供給量を削減したことで石油そのものが市場で不足し、価格が暴騰した。しかし、現時点で供給不足は起きていない。では、価格高騰の原因は何であろうか?

 

新聞でもよく書かれているように、余剰資金が原油の先物市場に流れ込み、それが価格を押し上げているという意見が大勢を占める(2004年以降、ニューヨーク・マーカンタイル取引所、NYMEXの原油先物取引量は三倍に膨れあがっている)。しかし、投機的な資金の流入だけで現在の石油の高騰を説明するのは少々苦しい。そもそも先物取引は現物の受け渡しを伴うわけではなく、最終的な決済は買った時点と決済時点の価格差を金の支払いで終える。この点で、モノ、すなわち原油そのものの授受が行われるわけではない。先物市場が市場心理をあおるという意味ではもちろん影響はあるが、先物市場への投機的な資金の流入だけで、今の価格高騰を説明するのは苦しい。

 

では、ほかの要因は何であろうか。70年代の石油危機では石油需要の多くはいわゆる先進国、つまり欧米と日本が占めていた。しかし、現在は、中国やインドと言った巨大な新興国家の需要が大きな割合を占めるようになってきている。たとえば、日本の石油消費は2007年に505万バレル/日(b/d)であったが、中国は785b/d、インドは275b/dであった。すなわち、中国の石油消費は日本を遙かに超え、中国とインドの二カ国で日本の二倍を消費する。ちなみに日本を除くG5では、アメリカが2070b/d、ドイツが239b/d、イギリスが169b/d、フランスが192b/dであった。インド単独でも、英仏独のいずれの国よりも消費量は上回る。[BP統計による]

 

一方、消費の伸びを比べてみると、2007年の対前年比の伸びは、先進国G5はすべてマイナスであった。これに対して、中国は4.1%、インドは6.7%と依然として旺盛な伸びを示す。二カ国ともに経済発展が続いていることに加え、石油製品に政府の補助金が入っており、市場価格が反映されないことで、需要を抑制できなくなっていることがある(中国のガソリン末端価格は¢79/ℓであるが、先進国でもっともガソリン税の安いアメリカですら$1.04/ℓである)。

 

投機的な資金が石油市場に流れているという理由だけでなく、このように新興国の石油需要が伸び続けていることが需給の逼迫感をあおっていることも、理由の一つにあげられる。

 

三つ目は、アメリカの石油精製事情であろう。アメリカでは、製油所が必要とする原油の性状と製品需要とのミスマッチが拡大している。これも、状況を悪化させている。石油製品は原油から作られる連産品である。製油所に投入する原油が軽質であれば、ガソリンや軽油の得率が大きくなり、逆に重質油では重油の得率が増える。欲しい製品は自動車燃料(ガソリンと軽油)である。当然、製油業者は軽質油を求める結果、軽質原油の価格を押し上げる。重質原油でも処理できるように製油設備への投資を行い、ガソリンや軽油の得率を増やすことも可能であるが、投資が進まない。アメリカの製油業者は、過去長期にわたって、製品価格と利益が大きく変動するという苦しみを味わってきたことから、投資には慎重になっている。

 

いずれにせよ、石油価格の高騰を一つの理由だけで説明することは難しくなってきている。70年代の石油危機のように単に供給不足で価格が上がったというものではない。様々な原因が複合して価格を押し上げているのが現実である。

 

 

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